「こっくりさん」
誰もがそれを聞いた事があるだろう。
中には、実行してみた・それに混ぜられた人もいるかもしれない。
寝子島高校のフツウの生徒・恵御納夏朝もその1人。
ある怪談話の時、語り手に合わせ相槌を打つようにこう言った。
『僕も、中学校でやったことあるよ。流行ってたもん』
ならば、やってみた時の状況はどうだったのか。
とじられた項をめくり…一部分を明かしてみよう。
A-1
―ある中学校にて。
『ねぇ、「こっくりさん」って知ってる?
最近流行ってるらしいんだけど―』
その場にいた、白く質素なセーラー服姿の中学生たちが
少し怖くてスリルがあり、すぐにでも試せそうな「噂」の話に色めき立ち…
放課後、興味のある子を集めてやってみようという事になった。
その中に、当時中学生だった
恵御納夏朝の姿もあった。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでください―」
広く一般に知られている
文字を書いた紙の上で、一枚の10円玉に皆の指を乗せて行う方法が
夏朝を含めた数人の生徒により行われる。
『危なそうだし、やめたほうがいいと思う』と言いながらも
他の皆が心配だったから、半ば仕方なく参加した夏朝。
その内心は、無事に終わってほしい…という
恐怖混じりながらも周囲の無事を願うものだった。
A-2
少し経って、夏朝は恐怖心が長引いたからか
若干のふらつきを感じていた。
そして…何が原因によるものか。
突然、己の中に強烈な衝撃が発生し…
そのダメージで、立っていられなくなる!
(駄目だ、10円玉から手を放せば…)
せめて指だけは離しちゃ駄目…!
指を乗せた左手と、机のふちにかけていたもう片方の手に力を集中したが
足と体までは支えきれず、倒れかけ―
「―なさん!」
「―御納さん、大丈夫!?」
夏朝は…結果としては、倒れなかった。
両隣の生徒が異変に気づき、とっさに空いた手で夏朝を抱き留め
さらに、参加せず見ているだけだった別の生徒が
後方から支えた事により、倒れる寸前で留まったのだ。
「ごめ……ゆび、は…?」
10円玉から手を放せば―それを事前に聞いたがゆえに、
周囲への脅威を恐れながらも立ち直して指を見れば…
…指は、10円玉から離れてはいなかった。
夏朝の指も、それ以外の生徒達の指も。
ある意味…ささやかな「奇跡」だったのかもしれない。
A-3
その後、夏朝の体調も考慮して
速やかに「こっくりさん」を帰す方法が行われた。
幸いにも、その時の「こっくりさん」は素直に帰ってくれたようだった。
…「こっくりさん」が帰った少し後に先生に見つかり
全員でこっぴどく叱られる羽目にはなったが。
長説教を聞かされ終えた後
下校した彼女達の結論は、概ね一致していた。
「…さすがに2度とやらないわー」
また異変が起こると困るしね、と皆で笑う。
一度崩した体調も、帰りまでには落ち着いていて。
夏朝は、笑いの輪の中に混ざって、自宅への帰路についたのだった―。
a-1
―ある中学校にて。
『ねぇ、「こっくりさん」って知ってる?
最近流行ってるらしいんだけど―』
その場にいた、暗赤色の特徴的な制服に身を包んだ中学生たちが
少し怖くてスリルがあり、すぐにでも使えそうな「噂」の話に色めき立ち…
放課後、暇な子を集めてやってみようという事になった。
その中に、当時中学生だった
恵御納夏朝の姿もあった。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでください―」
広く一般に知られている
文字を書いた紙の上で、一枚の10円玉に皆の指を乗せて行う方法が
夏朝を含めた数人の女子により行われる。
『危なそうだし、やめたほうがいいと思う』と言いながらも
他の皆が心配だった事もあり、仕方なく参加した夏朝。
その内心は、無事に終わってほしい…という
恐怖混じりながらも平穏を願うものだった。
a-2
少し経って、夏朝は体調が悪いからか
若干のふらつきを感じていた。
そして…その状態でも立っていたのが原因なのか。
突然、己の足首に強烈な衝撃が発生し…そのダメージで、立っていられなくなる!
(駄目だ、10円玉から手を放せば…)
せめて指だけは離しちゃ駄目…!
指を乗せた右手と、机のふちにかけていたもう片方の手に力を集中したが
足と体までは支えきれず、倒れかけ―
「―なさん」
「―御納さん、だいじょうぶー?」
夏朝は…結果として、倒れてしまった。
両隣の生徒が伸ばした手は、夏朝の体に当たった。
参加せず見ているだけだった別の生徒は
後方から支える事もなく、倒れるのをただ見ているだけだった。
「ごめ……ゆび、は…?」
10円玉から手を放せば―それを事前に聞いたがゆえに、
周囲への脅威を恐れながらも立ち直して指を見れば…
…指は、10円玉から離れていた。
夏朝の指が。それ以外の生徒達の指も。
起こるべくして起こった「必然」だったのかもしれない。
a-3
その後、帰り時間も考慮して
速やかに「こっくりさん」を帰す方法が行われた。
幸か不幸か、その時の「こっくりさん」は簡単に帰ってくれたようだった。
…「こっくりさん」が帰った直後に先生に見つかり
逃げ損ねた一部が、こっぴどく叱られる羽目になったが。
長説教を聞かされ終え、あるいは逃げおおせて
下校した彼女達の結論は、大体が一致していた。
「…さすがに2度とやれないわぁ」
また誰かが倒れると困るしね、と皆が笑う。
一度崩した?体調も、帰りまでには落ち着いていたけれど。
夏朝は、笑いの輪から遠く離れて、自宅への帰路についたのだった―。
結
――残念ながら、この2つの事項は矛盾しない。