＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●蛇那伊、リンコ・ヘミングウェイに接触する

　男がいる。
　背が高くがっしりとした体つきのわりに、ほとんど気配が感じられない。
　尾鎌蛇那伊である。
　街には死角がある。物陰、建物の上。人目の届かないところは意外にある。
　中国拳法を学ぶ蛇那伊は、呼吸を整え、五感を研ぎ澄まし、自らを周囲に溶け込ませる。
　黒服のそいつらを見つけるのは、案外容易だった。
　あちらも隠密の術には長けているようだったが、宝の島を目にした欲望、奪ってやろうという邪気のようなものを隠しきれていない。
　通りの角でやり過ごす。
（槍や光珠の謎は他の皆がきっと解いてくれるわ。なら、アタシはアタシができる事をするまで）
　人の気配に気を配りながら迷路のような路地を行く。道同士が複雑に交差している。
　パタパタと慌ただしい女の足音が聞こえ、蛇那伊は物陰に身を隠した。
　通り過ぎたのは、黒いローブをすっぽり被った女で、護衛なのか見張りなのか黒服の男をひとり従えていた。
　蛇那伊は素早く物陰から躍り出る。
　自分とさほど変わらない体格の黒服に奇襲を仕掛け、手刀で打ち据え膝で一撃。
　男が苦悶の表情で転がるのも想定のうち、リンコの背後を取ってその口を塞ぎ、物陰に引きずり込む。
「しっ……黙って」
　蛇那伊はリンコに目配せすると手早く盗聴器の類がないか確かめ、ふふん、と笑った。それだけでリンコも勘付いた。蛇那伊が敵ではない、ということに。
「これは独り言だけど」
　蛇那伊はそう前置きして、梨香たちの現状や歌について手短に話す。
「さて、リンコさんも独り言で情報を漏らしてくれると嬉しいわね」
　するとリンコもローブを取ってにやりと笑った。
「独り言。好きよ、そういうの。あたしたちは全部で２０人。見張りがひとり船に残って、あとは数人ずつ分かれて街に散ったわ。街を破壊したり、この島の人に危害を加えるのは極力避けるよう言われてる。この街も島の人も、長年探し求めてきた物珍しい宝の一部だもの、丁重に扱えって事なんでしょうね」
　爪の先のマニキュアの赤を見つめながら、リンコはふと、何かを思い出したようであった。
「そういえば、ボスのリアージオはこの島の秘密を何か知っているみたい。歌……そう、歌よ。歌ってたわあの男。あなたが教えてくれたものによく似てて、でも同じ歌じゃなかった……」
　リンコはその歌の詩を、正確には覚えていなかった。
　ただリアージオは部下たちに槍を奪うよう指示したという。
「彼、指令役だから船からそう離れていないと思う。片目サングラスでヒキガエルみたいな顔をしているから、見ればすぐわかるはず」
　話しながら、長い黒髪と真っ赤な口唇が、愉快そうに揺れる。
「じつのところ、梨香やあなたたちがどうなってるか分からなくて動きが取りにくかったの。けど……風向きが変わってきたみたい。感謝するわ」
「感謝ついでに、黒服をはいでシーノの兵隊に成りすます方法や注意点なんかがあれば最高なんだけど」
「そうねぇ」
　リンコは転がっている黒服と蛇那伊とを見比べる。
「前髪を下ろして、口紅とアイシャドウを拭ってみたらどうかしら？」