＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●ニコの運命

「ニコくん！」
　音海なぎさがメディカルバックを手に駆け寄った。
　銃弾は胸を貫いていた。ひどい傷だ。なぎさが両手で押さえるも、血が流れ出てきて止まらない。
「ニコくん、ニコくん、しっかり！」
　椿美咲紀も駆け寄る。ふたりでガーゼを当てがうが、それも見る間に赤く染まる。
「救急セットじゃ役に立たなそうですね。私のろっこんで……」
　とそのとき、地面が大きく揺れた。塔がひとつ、轟音を立てて崩れる。島が、崩壊を始めたのだ。

　シーノの男たちの中からも戸惑いの声や悲鳴が起こり、リアージオが苦々しくも「船に戻れ！」と撤退を命じているのが聞こえた。

「ここにいたら巻き込まれる。紅梟号に運んでそこで椿くんのろっこんで治療しよう」
　そういって抱きかかえようとするなぎさの手を、ニコは掴んで首を振った。
「ぼくは、君たちとは行かないよ」
「何を言って……」
「たぶん、これでいいんだ。あの日、宝ごと島を封じるときめたあの選択を、後悔はしない……けれどあのときじ曲げた運命を、ぼくは今日、受け入れたいんだ……」
「黙って。もう話さないで。椿くんの力があればきっと大丈夫だから」
「……お願いがある。ぼくをタートル号に乗せてほしい……」

　なぎさは美咲紀と見交わした。そして決めた。ニコの願いを叶えることを。
　なぎさはニコを抱えると、タートル号の狭いシートに横たわらせた。
「ありがとう、我が儘をきいてくれて。さあもう時間がない。君たちは行って」
　なぎさはお別れにニコの手を強く握った。美咲紀はその大きな瞳からぽろぽろと涙を流しながら、花を手にして＜舞花の祈り＞を舞っていた。一指しでも。せめて痛みだけでも取り除いてあげたいから。
「君たちと出逢えてよかった。さようなら」
　ニコはそう言ってなぎさの手を突き放すと、ハッチを閉めた。
　最後の力すべてを掛けて、紅梟号を導こうというのだ。
　それをいつまでも見送っている時間は、なぎさたちには残されていなかった。

「船を出すぞー！」
　龍目豪と恵御納夏朝が、ろっこんの力を使って船を沖へ押しやろうとしている。
　美咲紀は涙を拭って紅梟号に乗船する。なぎさは豪と夏朝とともに船体に手を掛けた。
「ボクのろっこん」
　＜オーバーヒーリング＞。腕力増強の力。誰かを何かを守るための力。ニコは最後までなぎさを女の子だと思っていた。そのおかげでみなぎる力をなぎさは自らのうちに感じていた。
「ボクは船を、ボク達の海へ押し出したい。みんなを、救いたいから」

　甲板では利平が慌ただしく、小麗や此方に出航の指示を出している。
「よし、俺たちも最後のひと働きだぜ」
　豪は力強く腕まくりをすると、夏朝となぎさを鼓舞した。
「行くぜ、ファイトー！」
「軽くなれぇぇ！」
「ボクのちから、限界まで！」

　三人は砂浜に足を踏ん張り、全力で船体を押す。
　ずり、ずり、と船底がすべる。さらに三人が渾身の力を籠め肩で押すと、船はふわりと浜を離れた。
　三人は、急ぎ縄梯子に掴まると、紅梟号へと乗り込んだ。
　隣では囚人たちの力を借りて、リ・ボーン号も動き出そうとしている。

　まるで二つの船が島を離れるのを待っていたかのように、これまでにない轟音がし、島のすべてが崩れ始めた。欠片になり、立ち上る泡で真っ白に染まりながら、島は徐々に沈んでゆく。
　今までよりもなお深い、さらなる海のしじまと――。