＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●明るい方へ

　世界は、淡く揺らいでいる。
　ごぼり、ごぼり、と音を立て、泡が上へと昇ってゆく。
　水色の世界。空は波。
　太陽の光が映り、ゆらゆら、白く揺らめく。
　明るい方へゆこう。
　そこが、私たちの海だから。

◇

　太陽はまったき天頂にあった。
　空は真っ青で雲一つなく、世界の半分を明るく覆っている。
　世界のもう半分、深い色をした海から突如水しぶきがあがり、青と蒼しかなかった世界に、真っ赤な船が押し上げられる。老貴婦人のような佇まいの二本マストの帆船、紅梟号である。
　戻ってきたのだ。
　わたしたちの世界へと。

　肺の中の空気を全部吐き、それから、新たな空気を胸いっぱいに吸い込んで。
　利平は叫んだ。
「うおおおおおおおーーーーーっ！！」
　みんなも顔を見合わせあう。
　ああ、こんなとき言葉はなんて無力なのか。
　ないまぜになった感情で、胸はこんなにいっぱいなのに、叫び以外の言葉が出てこない。
　咆哮する。ただこの世界に生きていることだけを噛み締めて。なんでもいい。叫ぼう。叫ぼう！

　みんなは叫んだ。
　咆哮した。
　太陽と空のある世界に、吼えて、吼えて。

「あは、あははは……！」
　さゆるは甲板に仰向けに倒れ込む。
「また、生き残っちゃったわね……」

「世界は、ほんとうに綺麗……」
　此方はそういって眦を拭うと、ちいさな小麗に寄りかかる。
　小麗は此方の手をきゅっと握ると、利平に笑いかけた。
「お宝は惜しかったなのだ」
「ははは。たしかにすごかったけど、ややこしいのは、いらねーや。俺の宝はココに有るしな！」

　そういって自らのヘッドホンを指差す。
　宝は、もう持っている。そう言いきる利平を見て、此方も思う。
「そうね……海の底の島も綺麗だった。けれど帰ってきて改めて感じる。この世界も、とても綺麗……この世界の在り様は、とても美しくできているのね……」

　美咲紀と修も寄り添う。
「皆で無事に脱出出来て良かったのです。生命は一番のたからものですからね」
「結局……残ったのは記憶だけ。幻の島、か」
「幻ですか？　でも私達皆に経験という記憶は残るので何も残らない訳じゃないです」
　美咲紀の脳裏に、ニコの最後の微笑みが浮かぶ。
「そして経験はいずれ思い出となって、懐かしく思い起こすのですよ」
　美咲紀は微笑んだ。いまはまだ、笑うと痛いけれど、それでも精一杯に微笑んだ。
　その笑顔に鼻の奥がつんとして、修は美咲紀の頭をくしゃり撫でる。
「わ、わわ？　なんです、急に」
「いやべつに。女の子って、強いなと思ったのさ」

　九月は穴の開いたキャスケットを握りしめている。
『ぼうし　ざんねんだったね』
　海とエヴァが九月を支えるように立つ。九月は首を振った。
「わたしこの帽子、大事にします。だってこれも思い出ですから」
　エヴァは切ない笑みを浮かべると、九月の肩をぎゅっと抱いた。それで九月はすこし泣いた。

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