寝子島キャンバス｜リアクション

寝子島キャンバス

　駅の壁に張り付くようにして将尋が自由に描く。隣には千里がいて猫や犬にピンクのリボンを付けていた。
　ロベルトが目敏く見つけた。
「元気な子供達が一杯だ」
「俺達も早く行って描こうぜ！」
　うずうずしていた由貴が堪らずに駆け出した。
「僕は犬にするですよ。アイザックをカコヨク描くます！」
　フィリップは由貴のところに走っていった。
　ロベルトは後ろを振り返る。たくさんの子供達の姿があった。家族連れの姿が多い。
「僕は子供が好きそうな絵を描くか」
　ロベルトはロボットやヒーローを中心に描いていった。
「へー、こんなのも描けるんだ。ロベルトは絵が上手いな！」
　覗き込む由貴に、ありがとう、とロベルトは微笑んだ。
　興味を持った将尋が犬の絵を頼んだ。ロベルトは柔らかい笑みを浮かべる。
「どんな犬にしようか」
　ロベルトは精悍な犬を描いた。上空には鷲が飛んでいて将尋は手を叩いて喜んだ。
　二人の遣り取りを耳にした彰尋は決まりが悪い顔で軽く頭を下げた。
「弟の無理に付き合わせてしまって悪いね」
「僕も楽しんでいるよ」
　ロベルトの言葉に救われた。ありがとう、と彰尋は思いを口にした。
「犬や猫もいいな」
　由貴は自作の絵を見て頷く。
「フィリップの犬は耳がとがっててカッコイイな」
「愛犬のドーベルマンですよ」
「そっかー。猫は描かないのか」
　何気ない由貴の問いにフィリップは言い辛そうに笑った。
「僕は猫、嫌われるから」
「そうなのか？　顔が犬っぽいのかも」
「におうですかね」
　フィリップは自身の袖の匂いを嗅いだ。様子を見に来たロベルトが羨ましそうに見ている。
「ロベルト、絵が出来たぜ！」
「いいね、誰かに絵を教わったことでもあるのかい？」
「ばぁちゃんのおかげかな」
　由貴は良い笑顔を作った。笑みを湛えたロベルトはフィリップの絵に目を移す。
「こっちはドーベルマンだね」
「どうでしょうかです」
「うん、この絵、僕は好きだよ」
「ありがとうです！」
　駅の壁の一面にずらりと個性が光る。彰尋は全員の許可を得て携帯のカメラで写真を撮った。
「少し時間をくれないか」
　その声に全員の目が集まる。疲労の色を濃くした修が立っていた。
「駅ビルの屋上で大掛かりな絵を描いている。残念ながら俺だけでは時間に間に合いそうにない。勝手なお願いで心苦しいのだが皆の力を貸してくれないか」
「猫の手ではないけど、真央ちゃんの手なら貸してあげるのだ♪」
　島内を駆け回っていた真央が話を聞き付けてやってきた。
「ありがとう、助かるよ」
「面白そうだな、俺もやるぜ！」
　由貴が話に乗るとフィリップも片言で参加を口にした。
「二人がやるのなら、僕が断る理由はないよね」
「ありがとうございます」
　修はロベルトに感謝の言葉を送る。
「俺も参加するよ」
　最後に彰尋が困ったような笑みで言った。弟妹が両腕にぶら下がって、やろうよ、と執拗な催促を繰り返していた。
「本当にありがとうございます」
　修は有りっ丈の感謝を言葉に込めた。