寝子島キャンバス｜リアクション

寝子島キャンバス

　金髪を肩口で弾ませてトワ・E・ライトフェロゥはずんずんと道を歩く。青い瞳は何かを探し求めていて落ち着きがない。手にはクレヨンの箱が握られていた。
「walkingよりdrawingデス」
　ピンクのパフスリーブワンピースのスカートが僅かに翻る。トワは横手の寝子島の案内板をじっと見る。
「ネコたかってる。でもnekojima MAPネコいないデス」
　トワは持っていたクレヨンで看板の全部を使って大きな猫の絵を描いた。
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　出来栄えの良さに、にゃーん、と猫の鳴き真似をした。数秒と止まらず、トワは歩き出した。
　道なりに進むと小ぢんまりとした交番を見つけた。一面の壁は滑らかで創作意欲を掻き立てる。
「nekojima station to right　コウバンのそば、ネコあつまるデス」
『　Λ＿_Λ
　（・ｘ・）＜エサくれ』
　トワは笑みを浮かべて歩き出す。人々の中を舞い落ちる花のようにひらひらと躱して進んだ。通りにカフェやレストランが多く見られるようになった。
　その一店舗に向けて駆け出した。
「nekojima shopping　mallあるマス。petOKのオミセ」
『　∩_∩
　（ｘ・）＜おさわりOKﾖ』
「このみせ、petOKしらないデス」
　悪戯っぽい笑みでトワは踊るように通りへと戻る。横断歩道を渡って気ままな散歩を続けた。間もなく穏やかな海が視界に広がる。
　トワは寝子電スタジアムを横目に弾むように歩いた。
「ナニ、ネコがumbrellaもってるデス？」
　スタジアムの一部に正面を向いた猫が描かれていた。前脚が蕗の葉を持っていて傘を差しているように見える。その絵が気になるのか。横並びの位置に絵を描いた。
「nekojima stadium　トクトウセキ、すわってるヨ！」
『　Λ＿_Λ
　（ ■ｘ■）＜ハハハ　人がネコのようだ』
　トワは得意げな顔でにんまりと笑う。数秒で満足すると、また人混みの中に突っ込んでいった。人の流れに乗って寝子島シーサイドタウン駅に出た。その大きさは落書きに適していて幾つも見て取れる。
「リッカルドのアタマ。たまにネコいるデスよ」
『.Λ＿_Λ
　(・×・）
　((））））』
　町長の頭髪だけで表現された。トワは絵をじっと見続ける。小難しい表情で頭を左右に振り始めた。猫の絵に言葉を足した。
『ネタぎれ』
　一頻り考えたあと、明るい表情になった。
「stationに１０１匹かくデス！」
　トワは券売機で適当に切符を買った。タイミングよく本島に向かう電車がホームに到着した。
「のりこむのデス！」
　急いで改札を抜けて開いたドアに飛び込んだ。間もなく閉まって電車はゆっくりと発車した。窓の外の海を見ながらトワは野望を口にする。
「モット、ねこかくデス」
　駅に着く度に降りてトワは猫の絵を描いた。乗り遅れても気にしない。次の電車で先を目指す。何回も電車を乗り継いで北へと向かう。
「journeyみたい。モットモットいくデスよ！」
　その言葉の通り、トワは無計画な旅を続けた。やがて終着駅に辿り着いた。
「どこネ、ここは？」
　見上げる駅名標には『あおもり』と平仮名で書かれていた。