＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ

●敵船突入：漆黒の海蛇号

　時間はすこし巻き戻る。
　漆黒の海蛇号が紅梟号に体当たりしゾンビたちが船内に乗り込んできたとき、小山内海の姿はマストの上にあった。
（円ちゃん、刀くんと一緒に幽霊船に乗り込むよ。なにはともあれ頭さえ押さえればっ！）
　海はチャンスを狙っていたのだ。海蛇号と紅梟号が最接近するこのときを。
　ロープをくくりつけた手斧を＜アクセラレイトライン＞で打ち出す。
　こちらのマストからあちらのマストまでの軌道を描くことはもちろんできない。だが進化した力ですでに書いた軌道を変えて、敵船のいい位置に繋げる！
　手斧は狙い通りに加速し、海蛇号のマスト引っ掛かると、そのままぐるぐる絡んで固定された。
　くい、と引っ張る。
（うん。行けそう。次は私！）
　海はぐっとロープに体重を掛けると、そのままターザンの要領で、海蛇号へと身を躍らせた。
　そのときだ、待ち構えるかのように敵のゾンビが着地目標地点に躍り出た。
（いけない！　このままじゃ掴まる！）
　海は自らの不運を呪った。が、次の瞬間、ぱん、と銃声が鳴り響き、ソンビの肩がはじけた。
　海からは見えなかったが、援護していたブリジット・アーチャーのマスケット銃から硝煙が上がっていた。
（ええい、ままよ！）
　海は勢いのまま撃たれたゾンビに体当たりして海に落とすと、すぐさま＜アクセラレイトライン＞でロープを紅梟号で待つ刀の元へ返す。刀はそれを掴むと、船の縁を蹴り勢いをつけて海蛇号へと跳んだ。
　着地、すぐさま甲板を転がるようにして衝撃を殺し、そのまま頭の中で撃鉄を落として＜加速＞する。
　彼が加速することで、相対的に世界の動きが凍り付いたかのように遅く見える。
（この状態なら船が揺れる前に動ける！）
　よく研がれたカットラスを抜くや加速した肉体で一気に間合いを詰め、修が渡し板を落としたせいで紅梟号に渡り損ねたまぬけな奴の両腕を斬り落とす。
　ああ、そいつは自分にいったい何が起こったのか分からなかっただろう。
　なぜなら、自分の両腕が無くなったと気づいたときにはもう、刀は海の傍に戻っていて、次に渡ってくる円を迎えていたからだ。
　ゾンビはまぬけにも、落ちた腕を拾おうと四苦八苦していた。
　だが、ない腕で拾おうとする試みは当然うまく行くはずがない。
　とうとう癇癪を起して、ゾンビは刀たちに襲い掛かった。が、そのとき。
　銃声一発。もう一発。
　１発は外れ、もう一発がゾンビの眉間に黒く穴を開けた。それで、そいつも終わりだった。どう、と倒れ、動かなくなる。
　紅梟号の甲板で、樽の影からブリジットがひらひらと刀たちに手を振っている。

「これでもシューティングはグランパから教わっているの。マスケット銃はさすがに撃ったことなかったけど」
　マスケット銃の最大の難点は先込め式で装填に時間がかかることだとブリジットも理解していた。熟練したマスケット銃兵なら１分間に２数撃てると聞いたこともある。だが自分は違う。なにより襲ってくるゾンビを前に悠長に再装填している時間なんてないだろう。ゆえに準備万端、予め弾丸を装填したマスケット銃を足元に用意しておいて、持ち替えて射撃したのだ。大波による揺れ、そして吹き付ける風雨の中、一発でも眉間に命中させることができたのは、きっとグランパのおかげだ。

「ゾンビに襲われた時は、落ち着いて頭を狙え。弾は貴重だ。無駄にするな。ってグランパが言っていたわ」
　グランパ曰く、と適当な事をいうこともあるブリジットだが、これは本当にそう言っていた。グランパはゾンビ大好きアメリカ人だったのだ。たぶん人気ゾンビドラマの影響だろう。
　マスケット銃を撃ち尽くしたブリジットは、海蛇号に渡り仲間たちと合流した。
「あたしも行くわ！」
　神薙焔も海のロープを借りて海蛇号に渡る。
　
　幽霊船が来てもクラーケンが来ても慌てず騒がず心静かに対応していた尾鎌蛇那伊が幽霊船に渡る仲間たちを見て口唇を舐める。
「神魂絡みの騒動によく巻き込まれる身としてはこれぐらいは平常運行って感じよね。さて、いつもなら船に残って防衛戦と行く所だけど、たまにはアタシも親玉を殴りに行きたいじゃない？　というわけで、ンフフッ」
　蛇那伊は十分下がって助走をつけると、その鍛えられた筋肉でばねのように甲板を蹴る！
「ホップステップジャーンプ！　オホホ！！」
　ずんっ、と海蛇号が傾くくらいの勢いで着地すると、きらりと刀たちにウィンク。
「アナタたち、親玉殴りに行くんでしょ？　共闘しましょ！」