＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ

●作戦会議：リ・ボーン号

　紅梟号の大砲は先に打ち止めになったが、晴海飛鳥はまだ粘っていた。
　しかし、幾度目かのブロックを打ち出そうとして違和感を覚え、飛鳥は喉を擦る。
「……、ぁ……」
　声はかすれて出なかった。＜ソリッドボイス＞も打ち止めだ。
（ま、頑張ったよね。だいぶ時間も稼いだし）
　じっさい飛鳥はいい仕事をしたと言っていいだろう。
　紅梟号の甲板ではいまだ激しい戦いが繰り広げられいるが、どちらかといえば紅梟側が優勢らしく、随分敵の数が減ってきているように見える。同時にクラーケンが襲って来ていたらこうはいかなかったに違いない。
（しかし凄い嵐だなぁ、こんな所で海戦やってたら確かに沈んじゃうね、死んでも諦めきれない宝の魅力は、彼らの様子で推して知るべし、か……それとも？）

◇

「状況を確認しておこう。紅梟号と幽霊船は交戦中。幽霊船の奴ら、我らがリ・ボーン号には全く興味がないと見える。お蔭でこの船はフリーだ。これは重要ポイントだぞ。さて、ゲソの奴が前方から来る。飛鳥が随分粘ってくれたが、足止めも限界という所だな。ここまではいいか？」
　双葉仄が一同を見渡す。
　リ・ボーン号の操舵室では作戦会議が行われていた。
　メンバーは船長で現在舵を握る骨削瓢、操舵手の鬼崎あやめ、あやめの従妹で鬼崎未月、紅梟号からの客人サキリ・デイジーカッター、此度の冒険の首謀者坂内梨香、そして仄だ。
　瓢がいつものヘラヘラ笑いを浮かべながらこう提案した。
「幽霊船とゲソ、両者をぶつけて潰しあい、漁夫の利を得るって作戦はどうだい？」
「気が合うな」仄がニヤリ笑う。「幽霊船にゲソ、ゲソにゾンビを相手にしてもらうのが最上だと私も思う。問題はそのためにどうするかだが、――いくつかプランがある。状況に応じて連携して動けるよう、紅梟号とも作戦パターンを共有しておきたい」

　仄はこの場合はこう、あの場合はこう、という具合にいくつかの作戦を捲し立てた。
「あー、なんか面倒くさくて性にあわん。ヒトハはんの作戦を覚えるのは鬼崎はんに任せるよぃ」
　瓢は耳をほじって聞き流すと、あやめと舵取りを交代した。他にやりたいことがあるらしい。
「ああ、ああ、瓢はそう言う奴だろうさ。なら、あやめ、舵は任せる。この作戦は舵取りが命だ」
「わかりました」
　目の回る様な心持ちだったが、あやめはそれらを何とか呑み込む。
「大丈夫、お姉ちゃん？」
「大丈夫ですよ。未月ちゃんも手伝ってくださいね」
　頷く未月に笑顔を向けると、ぎゅっと舵を握る。緊張でみるみる手のひらが汗ばむ。慣れない船旅であやめは疲れつつあった。だが、ここからが正念場なのだ。
（……はぁ、私って、面倒事が回ってくる星回りなんですかね）
　梨香が舵にそっと手を添える。まるで、あやめを励ますかのように。
「先輩……」
　あやめと梨香は視線を交し合った。乗り切るしかない。生きて宝の島を拝みたければ。

　仄は作戦ごとに色の名前を付けた。彼女は様々な色の発煙筒を持ち込んでいて、どの作戦で行くかを色つき煙で知らせようというのだ。作戦を記したメモ、色付き発炎筒、仄がふたつ持っていた双眼鏡のうちひとつが袋に入れられ、サキリに手渡される。
「これを紅梟号の船長に渡してくれ。そうそう、これも伝えて欲しい。最悪作戦遂行不可能で合流して欲しい時は白の発炎筒を使え、と」
「了解」

　サキリが＜斬空舞踏＞で紅梟号に帰還する。
　リ・ボーン号の皆も、作戦に備え、急ぎ配置につく。
　レインコートのフードをきつく絞って、仄は見張り台へ。あやめと未月、梨香はの三名は操舵室に残り、瓢は猿のボグルを連れて船倉へ。

　間もなく、パン、と紅梟号から赤い煙が上がる。
　応えるように仄も同じ赤の発煙筒を上げる。
　作戦開始だ。
　まずは作戦レッド、幽霊船の後ろに回り込む！

「取り舵、いっぱい！」
　あやめは梨香と未月に支えられ、力いっぱい舵を回した。