空を漕ぐブランコ｜リアクション

空を漕ぐブランコ

　
　
　空を見上げます、高い高い空です。
　空を見下ろします、深い深い空です。

　そんな青空の真ん中で、御剣刀はブランコを漕いでいました。
　一体いつから自分はここにいるのでしょうか。つい一瞬前までは別の場所に居たような気もしますし、ずっとここで、ブランコに揺られていたような気もします。
　でもともかく、今はここに１人。独りきり。
（誰もいない、誰もいないよな？）
　周りを見回し、自分を見ている者が誰もいないことを確かめると、御剣はおもむろに座板の上に立ち上がり、がむしゃらにブランコを漕ぎ始めます。効率の良い漕ぎ方も何も、あったものではありません。ヘッドバンギングのように無茶苦茶に頭を振り、ブランコの鎖を引き千切るようにガチャガチャと揺さぶって。
　そして口を開け、ありったけの大声を出します。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ！！」

　外で意味なく大声を出し、全力で走り出したくなるような衝動に駆られることは、誰しも１度や２度はあるものですが、そんなふうに。声が枯れて頭が空っぽになるまで、御剣はひたすら全力でブランコを漕ぎ続けます。
　そうしてようやく、疲れ果てた御剣はブランコを止め、
　キィ…………。静かに前を見つめて、その場に立ち尽くしました。
　視界には、やっぱり同じ空が映っています。
　持てる力のありったけを使って漕いでも、全く手が届かず、微動だにしない空が。
（手を伸ばしても何も掴めず、
　どんなに大声を出しても……空に飲まれる）
　自分がどれだけ頑張っても何も成せず、残せず……
　彼がやっている事に意味はないのだと。
　目の前の空から、いや対峙している世界から、そう言われたような気がしました。

　１人だからでしょうか、そんなふうに感じる不安を、素直に受け入れることが出来たのは。
（先の事は分からない、だからその不安が付きまとうのは仕方ない）
　御剣はそう自分に、言い聞かせます。
（ただ加速した果てに俺は独りきりになる……
　その恐れをクローネにろっこんを暴走させられた事で体験した。
　暴走、それは加速がいきつく１つの可能性。
　つまり俺のろっこんが成長した先にある事実）
　クローネとの戦いの中で、御剣は以前、自分の能力を暴走させられたことがありました。肉体と精神を加速するろっこんの性能を極限まで引き出され、あまりに速過ぎる彼を周りの誰も認識できないという、絶対の孤独を味わわされたのです。
　それは御剣自身、いつかこの身に起こるのではと予期していたことではあったのですが。
（進んだ先に俺の恐れる物があった、
　それでも俺の大切な物の為にそれを乗り越え先に進んだ。
　だけど守りたいって行動の果て、
　剣を究めると進んだ果て、
　そこに手を伸ばし前に進んで、その果てに手が届いた時──）
　自分のやってきた事に何も意味はなかったのだと、そう感じてしまう何かがあるのではないかという。
　新たな不安と恐怖が、彼の心を責め苛み始めたのでした。

「被害妄想だ、考え過ぎだ」
　御剣は固く目を閉じて、ぶんぶん頭を振ります。けれども、
（そう自分に言い聞かせて、この先、前に進めるか？　無理だ）
　抱えた不安は、極限の状況下で、己の行動に枷を掛けます。
　一瞬の判断の迷いが生死を分け、取り返しの付かない結果を生む前に。

「俺は答えを出さないといけない……この不安に打ち勝つ為の答えを」