【あの敵を撃て！】

「そう……私の名前は、『やし・きのこ・ずえ』。もはや、なめこの山のために生まれてきたと言ってしまっても、過言では無いのです」
　なんて相変わらず、オオゲサ演説モードの屋敷野 梢。
　彼女がどこにいるかといいますと、公園内にいくつも立ち並ぶ、高い樹の上！　でした。
「その、私が！　兄に、『何か適当にお菓子買ってきて』と頼み……当然買ってくるはずのなめこの山を楽しみにしていたら、手渡されたのは、そう。つちのこの里……ッ！　あの時に味わった、悔しさ。怒り！　お分かりですよね、これこそが、私の原動力なのでーすっ！」
　どっかん！　樹の上から容赦なく、つちのこ派が隠れているあたりへと目がけて、スケールバズーカをどかすかと撃ち込む梢。食べ物の恨みは、というやつなのでしょうか？
　お得意のろっこん戦法、蝶に変身してひらひらと飛び回り、解除しては樹上やら遊具の上やら、あらぬ場所から砲撃を撃ち込む。その戦いぶり、それに彼女の口上へも大いに共感してしまったのが、篠原 翠響でありました。
「なめこを待っていたら、届いたのはつちのこ……ひどい。あんまりだわ、許せないわね！　絶対につちのこ派を倒しましょ、梢！」
「あ、ええ、はい。頑張りましょうねー」
　中学生の女の子が向けてくる、きらきらとした笑顔に……梢は、言えません。
（……まーほんとは、なめこもつちのこもそんなに食べないんですけど。スルメとかのほうが好きなんですよねー）
　だなんて！　まぁぶち上げた演説によって、いくらかチームメンバーの士気を上げられたなら、それは戦いがより白熱することにも繋がるわけでして、ゲーム好きの梢としては願ったり叶ったり。というところでありましょう。
　潜伏先からちらりと顔を覗かせ、孤立した敵を見つけると、翠響は、がしゃこんっ。構えますのは、複数の敵を一度にふっ飛ばす、巨大なミサイルランチャー！　しかも当たればスケスケ、なスケールガンタイプ。なんという凶悪兵器……！
　おまけに翠響は、
「どうせ当てるなら……女の子のほうが、面白いかしらね？」
　いえヘンな意味では無く、服をスケスケにして、羞恥で動けなくしてしまえばいい、という彼女なりのシビアな割り切りでありました。
　ともかくその標的として、ぴぴっとロックオン！　されましたのは……つちのこ派、三宅 葉月！
　どどどどんっ、と発射されたミサイルたちが、煙の尾を引きながら葉月へと殺到していき……。
「はっ……！？」
　どぱぱぱぱん！　けれど間一髪、葉月は慌てず、滑り台の影に身を飛び込ませて回避成功！
　と、思いきや。羽織ったコートの裾が、いつの間にやらシースルーになっていたりしまして。
「……冬物に替えてこなくて、正解だったわね」
　出掛けに、秋物コートもそろそろしまい時かな、新しい冬物を出そうかしら……なんてちょっぴり迷った末、秋服維持を選択した自分の判断を、心の中で賞賛しつつ。クールな彼女は隙を突いて、梢と翠響めがけて手にしたハンドガンを、連射連射！
「おっとと、危ないっ」
「きゃあ！？」
　蝶になって際どくひらり、弾を避けた梢をよそに、弾は翠響の胸元へとヒット！
　べしゃ、という音に、広がるいや～な感触。
「ちょ、何これー！？」
　スライムガンでした。翠響は哀れ、ヌルヌル！
　そして、彼女や梢を狙うのは、葉月だけではありません。木陰へどうにか引っ込んだところへ、どばばばば！　と降り注ぐ、更なるスライム弾幕。
「ハハハ、これは楽しいなぁ」
　いつの間にやら足にはインラインスケートを装着し、反撃の銃弾は身を屈めたりジャンプしたり、ジグザグ走行で華麗に回避しつつ。戦場を颯爽と駆け巡り、二丁拳銃を撃ちまくり……傭兵、日暮 ねむる！　彼、実に活き活きとした表情を浮かべております。
　ずざざーっと葉月の横へ滑り込むと、ねむるは滑り台の陰から牽制射撃を行いつつ、
「僕らの銃は、地面に撃ち込んでも効果が見込めるからね。トラップとして活用していこう」
「分かったわ。協力して……」
　言いかけたところで、ぱん、ぱーん！　銃声が二回。
　気付けば葉月、それに向こうの梢の胸元へも、的確にヒットした弾は……またしても、スケスケ！
「ありゃ。私に当てるとは、やりますねー」
「……っ！？」
　のんびり言った梢と、思わずほんのり動揺を見せながらさっと胸を隠した葉月。ちらりっと覗いた下着からは目を反らしながらに……ねむると翠響は空間を隔てながらも、同時に叫びました。
「「スナイパーだ！」」



　神薙 焔！　彼女の見事な狙撃が、第三者同盟の存在を、戦場へと知らしめました。
「悪いわね……でも、争いは止めなくちゃ。大惨事になる前に……全ての服飾透過銃を消し去り、そしてあたしも消えるわ！　永遠に！」
　この通り、バリバリに気合も入っております。
　即座に届く反撃の銃撃、砲撃の雨あられに晒されながら、焔はスケール狙撃銃を背負って、愛用の自転車を漕いでちりりりん。一発撃っては移動を繰り返し、場所を悟らせないというのが作戦ではあったものの……ここはそれなりに見通しの良い公園内、なかなか上手くはいかないようで。
　焔の制服もまた透けて、手足にはヌルヌルスライムが絡みつき。覗くのは健康的なスパッツ、スポーツブラ！
「くっ。こんな悲劇は、繰り返してはいけないのよ……！」
　そうなのです。各人に手渡された銃の効果は、少年科学団の語るところによりますと、人それぞれにランダムで決定されるということだったのですけれど……始まってみれば、なぜか集まった面々のほぼ半数が、スケスケ透過銃を携えておりまして。
　そこにはどうしても何らかの意思が働いているとしか思えないのですけれど、目下イチバンの容疑者であるところのエロジジ、いえコペルニクスさんはこの件について、
「ワシ、知らんもんね」
　コメントを差し控えております。
「神薙さん、こっちに！」
　ぱぱぱん、と低周波電気銃、ビリビリガンを放ちながらの十朱 此方の声で、焔はベンチの陰へと自転車を滑り込ませ、さっと身を伏せます。
「助かったわ！　思ったより厳しいわね、これは……」
「どちらも相手にしなくちゃいけないんだものね。あたし、本当はつちのこの方が好きなんだけどな……」
「気持ちは分かるけど、スケールガンを捨て置くわけにはいかないわ」
　ぽむっと此方の肩へ手を乗せた焔、自ら透過銃を手にする彼女もまた、既になかなかこう、あられもない格好です。
　何という悲劇……！　此方はぐっと気合を入れまして、
「そうよ。そうだわ、スケスケ銃は……あれだけは、許されない！」
　ベンチの上へ乗り出して、果敢にトリガーを引く此方。
　けれど、
「……危ない！」
「えっ？」
　焔の声に、見上げれば。しゅるしゅるしゅる、煙を引いて飛んでくる……ミサイル！
　一瞬の隙にロックオンされた此方へ、放ったのは、スライムまみれの翠響！
「いっけーっ！！」
「きゃああああ！？」
　どどどど、どぱん！！　炸裂するミサイル、その爆風の直撃を浴びた此方……そして翠響のランチャーもまた、言わずもがな、スケスケタイプでありまして。
「……え？　あ、え？」
　混乱する彼女も、恐る恐るに、自分の服を見下ろしてみれば……やっぱり。スケスケ！　
「……～～～～～～っ！？」
　もう涙目真っ赤で、此方はアブナイところを、しゅばっ！　と隠しました。
　ところで彼女も、もれいびでありまして……そのろっこんの発動条件はと言いますと、今まさに彼女が直面するこの状況に、ピッタリ！　だったりするのです。
（い、いや……もう、消えてしまいたいっ！）
　なんて思った、その瞬間に。
　ぱっ！　スケにスケた服のみならず、彼女は全身すっかり透明になり、姿を消してしまいました。
「あら？　十朱ちゃん、どこいったの？」
　直撃は免れた焔、露出面積は広がりながらも仲間を案じた彼女の隣に、気配はありましたけれど。
「…………スケスケは……」
「十朱、ちゃん……？」
　自らを透明化するろっこんに、忌むべきスケスケ銃への、抑えがたい敵意が組み合わさった時。
「スケスケは、許さない……ッ！」
　それは目に見えない、恐るべきハンターの誕生に他なりませんでした。
「スケスケ銃は全て、あたしが狩り尽くすわッ！！」
「キャラ変わってるー！？」