おいかけっこしようよ！｜リアクション

おいかけっこしようよ！

破：まだまだ遊ぶよ？

　――寝子島神社

　そこで、御剣刀は困惑していた。
（なんだ、こいつ……素早い？！）
　牛瀬ひかるという小学生の男の子に「かけっこであそぼ？」と誘われたまでは良いが、この少年の妙な素早さに舌を巻く。だが、最速のプライドを持つ刀は、己のろっこん『加速』を使わないまでも、そんな心で追いかけていた。
「む、むちゃくちゃ早いじゃん……」
　双葉由貴はぜいぜい言いながら立ち止まり、額の汗を拭う。視線の先ではひかるが楽しげに境内を走り、刀がそれを追いかける。
「ひかる、待てよ！」
「ん～？　聞けへんもん」
　由貴の言葉に、ひかるが楽しげに笑う。そんな姿を見ながら、どうやったらこの１年生を捕まえられるだろうか、と考える由貴なのであった。

　それは数分前にさかのぼる。
「おいかけっこ？」
「うん。由貴兄ちゃん、おいかけっこしよー？」
　由貴は、神社の周辺を歩いている所、ひかるに話しかけられていた。由貴は実を言うと、あまり運動神経がよい方ではない。だから少し渋ったのだが、ひかるは小首をかしげてこんな事を聞いてくる。
「ん～、由貴兄ちゃん、もしかして、走るの苦手なん？」
「！　いーや。そうでもないぞ？」
　挑発された由貴はその言葉でおいかけっこをすることに。ひかるは「ほな、ちょっとまってな」と言って少し離れたところにいた高校生らしき青年のもとへ走っていった。

「ふぅ……」
　神社の境内で剣の練習をしていた刀は、額の汗を拭いながら帰る準備をしていた。今日は何時にもまして練習に熱が入り、充実した気持ちになっていたのだ。そろそろ昼食の時間かな、と思い練習を終えたのだが……ぴょこっ、と姿を現した小学生に声をかけられた。黒髪をうなじで束ねた、小学1年生ぐらいの少年である。
　少年はひかるだと名乗った上で
「なぁ、兄ちゃん。わい、おいかけっこする人探しとるんよ。今、１人見つけたトコやねん」
「ん？　いっしょに遊んで欲しいのか？」
　鬼ごっこでもするのかな？　と内心思いつつ刀が問いかければひかるは頷く。
「由貴兄ちゃんと、わいとあそぼ？　兄ちゃん、足速そうやし！」
「ん……」
　刀は引き受けるつもりはなかったのだが、走ってくるひかるの姿を見、何か妙な違和感を覚えてそれを受け入れた。

　そうして３人でおいかけっこをしはじめたのだが……妙に足が速いのだ。人間とは思えないほど身軽な動きに２人とも少し困惑する。
　その視線の先では、ひかるが声をかけられていた。相手は嬉野命である。彼女は、風のように走り回るひかるを見かけ、わくわくしているようだった。
「もしかして、ひかるちゃん？」
「命ちゃんやないか！　なぁ、いまおいかけっこしとるんやけど命ちゃんもやる？」
「うんっ。ミコもなんかうずうずしてきちゃった！」
　運動神経に自信のある命もくわわり、益々おいかけっこは白熱する。運動神経が良いというだけあるのと、小柄な身体を生かして命は風のように走っていく。
（わわっ、この子も速い！）
　追い抜かれた由貴は少し焦った。ひかるも命も速く走るので、己の運動神経のなさに少し苦しいものを覚えてしまう。刀はというと、このちょこまか走る２人に少し翻弄されかけていた。
「へへ～、こんな事も出来るんや！」
　と神社からちょっと出て、近くの塀を走るひかる。刀は「げっ？！」と僅かに呻く。
「塀の上を走るのかよ、負けるか！　俺だって……」
　と、身軽に塀の上へ登るとひかるを追いかける。ひかるから感じる違和感の正体を探るためのおいかけっこだったが、いつのまにか勝つ事が目的になっているような具合である。そうこうしているうちに家の持ち主に「塀を走るな」と２人そろって叱られるのであった。