おいかけっこしようよ！｜リアクション

おいかけっこしようよ！

「今日もお猫さまさがしなのだ～。猫集会でまたたび献上なのだ～」
　休日という事もあり、のんびりと散歩を楽しんでいた後木真央。だが、彼女の横をさっ、と何かが通り抜けていくのを見、きょとん、となった。
「お猫さまにしては大きいのだ！？　というか子どもなのだ？！」
　思わずいったそばから、壮年の男性と中学生ぐらいの少女が走りぬける。おいかけっこをしているようにも見えるが……。
「あの坊主、足が速ぇな……」
　そんな呟きが、真央の好奇心を高ぶらせる。もし、彼女に猫の尻尾が生えていたならばぴん、と立っていただろう。
「赤くないのに３倍速なのだ？　高校生として、陸上部として、あっさり負けてたまるかなのだ～！」
　真央はこうしてはいられない、とばかりに走り出した。

（ん？）
　走っていた鴻が真央に気づくのに、そう時間がかからなかった。彼は翠響や真央とぶつからぬよう、気を使いつつもひかるを追う。
「ほら、そんな速さじゃすぐにおいつかれるわよ？」
　翠響が挑発めいた事を言うが、ひかるはおかまいなし。ますます楽しそうに走っていく。ひかるは何かを思いついたのか、近くに置かれた箱を踏み台にブロック塀の上を走り出したのだ。
「お、おい！　あぶねぇぞ！！」
「平気やも～ん」
　ひかるは鴻の声に耳を貸さず、てってけてってけと塀の上を走る。そして、何かに気づくと、軽い音をたてて地面に着地し、曲がり角を曲がっていった。
「……くっ、ぜんぜん揺らがないわね」
　翠響が掃き捨てるようにそういい、真央は首を傾げる。まるで身のこなしが自分の愛する猫のような気がするのだ。
（なんか、あの速さはちょっと小学生のとは思えねぇ。あいつ同様、なんか能力でもあるのか？）
　甥っ子も己も『もれいび』である鴻はひかるを見失わぬようにしつつ考察する。ちょっと遅れ気味の翠響を気遣いつつも彼は走り続けるのだった。

「なあなあ、今、おいかけっこしてるんやけどいっしょにあそばへん？」
　ひかるは曲がった先で子ども２人に声をかけていた。一人は幼稚園生の吉田ちか。もう1人はお使い帰りの水カジカである。
「お父さん、ちょっと遊んできていい？」
「いいけれど、昼ごはんには戻って来るんだぞ」
　一緒にいた父親、吉田熊吉はそういってちかの頭を撫でる。そしてひかるにも「なかよくな」と笑いかけて買い物にでかけていった。
　一方のカジカは、学校でみた事のあるひかるに声をかけられ、少し考えていた。手に持つビニール袋はお使いとして買ってきた牛乳があるのだ。
　返答に困っていると、背の高い男性と、利発そうな女の子２人が走ってくる。ひかるはぱっ、と笑って
「そいじゃ、行くで。ちかちゃんもカジカ兄ちゃんもおいかけてな？」
　と駆け出してしまった。
「ひかるくんっ！」
「……まっ、まって！」
　ちかが慌てておいかけ、カジカもまたビニール袋を持ったまま駆け出す事になった。牛乳パックはなかなか重い。それを抱えたまま走るのはちょっと辛いが仕方が無い事だ。
（は、速い？！）
　カジカは普段外遊びが好きでよく身体を動かしている。足にもちょっと自信があるほうではあるが、ひかるに全く追いつけない。いや、なんか違和感を覚えてしまう。
（もしかして……？）
そうして走り続けていると……彼の横をふわっ、と滑る風。よく見れば、元気そうな女の子が走り抜けていた。そう、寝子高陸上部所属の真央である。
　少し力を振り絞ってひかるへと追いつく真央。ひかるはぱっ、と顔を輝かせる。
「おねーちゃんすごいなぁ！　わい、牛瀬ひかる言うねん。寝子小の１年生や！」
「真央ちゃんは、後木真央というのだ。もしかして、ひかるちゃんは、巧ちゃんセンセのいとこの息子さんなのだ？」
　真央がそんな事を言ったのは、ひかるの顔が自分の知っている先生の顔に似ていたからだった。切れ長ぎみの目と位置は違えど目の下のほくろは、その先生を髣髴とさせる。

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