おいかけっこしようよ！｜リアクション

おいかけっこしようよ！

「！　真央ねーちゃん、お父ちゃん知ってはるの？　めっちゃ嬉しい！」
「なんと！　巧ちゃんセンセのお子さんだったのだ！？」
　真央が目を丸くしている間にひかるはすこし先を走る。そこに追いついた翠響はツンとした声を上げた。
「そのぐらいなの？　ふん、ナメクジの方がまだ早いわよ？」
「なら、これならどう？」
　ひかるはくすっ、と笑って近くの箱を踏み台に飛び上がり、塀の上を走る。落ちたら危ない、と思った鴻がフォローするべく塀に沿う形で走り、それをみたちかも声をかける。
「ひかるくん、危ないからおりたほうがいいよー？」
「平気平気！　猫さんやて走っとるんやもん。わいかていける！」
「それ、違う？！」
　カジカが思わず突っ込むも、ひかるは楽しげに走り続ける。少しペースが落ちたところで、真央と鴻は何となく違和感を覚えた。というのも、『ひと』である翠響とちかが離れると、妙にペースが速く感じるのである。それでなんとなく、ひかるが無意識にろっこんを使っているのでは……とうっすら思うのだった。

　その頃、別の場所では修が自転車を押してあたりを見渡し、ひかるを探していた。
（ひかる君が、無自覚のもれいびの可能性、か……）
　修は巧から聞いた言葉を思い出しながら自転車を押していた。２学期に入ってから、かけっこなど走る遊びがなかなか出来なくなったらしい事、本人は本人なりに加減していたらしい事、誕生日以降よく考えてみれば時折以前よりより早く走っているように思える事、などを聞いていた。
　修はちかくにいた子どもたちにひかるを見なかったかを聞いてみたが、なかなかいい答えは返ってこなかった。
（道が違うのかな……？）
　そう考えたとき、マーブルが「にゃあ」と鳴いて路地を覗く。と、何人かの人が走っているのが見えた。
「？　あれは関係あるのか？　小学生が走っているのが見えたけど……」
　修は自転車にまたがり、彼らがいる道と合流する場所まで走ってみる事にした。

　ちょっと疲れたのか、神社の近くで鴻に捕まるひかる。だが、彼自身はまだ遊び足りないらしい。彼はお礼をいうものの……こんな提案を出してくる。
「んー……もっと遊びたいなぁ。皆でおいかけっこしてめっちゃ楽しかったけどまだ足りへんねん」
「あれだけ走ったのにまだ足りないの？」
　走りながら何気なく挑発するような事を言っていた翠響が不思議そうに問う。ひかるは頷き、ちょっと寂しそうに
「そや。んー、うまくいえへんけどなぁ、なんかちょっと違うよーな気ぃするねん」
「何だろう」
　カジカも不思議そうに首を傾げるものの、ひかるはふるふると頭を振ると気持ちを切り替えたようににぱっ、と笑った。
「できれば、いっしょにまだまだ遊んでほしいわぁ！　な、寝子島神社にいこっ！　競争や！」
　ひかるは楽しげに寝子島神社へと向かう。僅かに息の上がった翠響は転びかけたちかの手を取り少し休んでから行こう、と考える。
「うーむ、神社へ行ってみるのだ。もしかしたらあの子は……」
　真央はむむっ、と唸りつつ後を追おうとすると……猫を連れた修が姿を現した。
「なぁ、真央。ひかるくんを見なかったか？　俺は牛瀬先生と協力して探しているところだったんだ」
「その子なら寝子島神社に走っていったわ」
　真央が答えようとする傍から翠響が答える。修は少し考える。ややあって彼はその場にいた面々と共に寝子島神社まで自転車を押して行く事にした。

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