追試のお時間です　――星の海は赤点地獄？――｜リアクション

追試のお時間です　――星の海は赤点地獄？――

後半戦
「「この追試、足掻いてやる！！」」
（語り：御剣刀及び日暮ねむる）

　追試を受ける面々が眠気との戦いにも勤しんでいる。それを知ってか知らずか、旭雪彦のトークは止まらない。試験時間はもうすぐ半分を過ぎようとしている。が、じわじわとカオス度は進行しているように思えた。

　夏夜（恵御納夏朝の裏人格）は周囲もまた眠気に襲われている事を知りつつも、じれったく思っていた。派手に動けば雪彦に叱られるだろう。夏朝の事だけを考えれば他に構わず解くのが最善かもしれないが……。
（眠気誘発教師のせいで、夏朝の友達の自由時間が減れば、夏朝が悲しい思いをする。ならば……）
　夏夜はそっと、手を動かす。音をたてて予備のシャープペンシルが落ちてしまい、それで何人かは目を覚ます。また、問題を解きつつ様子を見て机にガンッ、と音をたてて肘をつき、痛そうにする。その音でも、何人か目を覚ます。
　その様子を見、夏夜は小さく溜息をついた。
「本当は夏朝の身体も評価も傷つけたくない。けれど、周囲を起こす為だ」
　彼女は小さく呟くと、静かに問題を解く事に集中した。因みに、落としたシャープペンシルは先生が拾ってくれた事を付け加えておこう。
「はっ？！　今確実に眠っていたのだ……」
　と夏夜が立てた音で我に返る後木真央。彼女は夏朝の姿を見て「追試組に夏朝ちゃんがいるって珍しいのだ……」と思いながらも、ある作戦に出た。
「雪彦ちゃんセンセー、鼻水出そうなので鼻かんでもいいですか、なのだ？」
　その問いに雪彦はうなずく事で許可を出す。真央はちーん、と鼻をかむと残りのティッシュを耳栓代わりにし始めた。
（これで集中するのだ。あとはただ解くべし、解くべしなのだ！）
　真央はきっ、と凛々しい眼差しで問題と向き合うと、再び解けそうな問題からアタックしていく。
　同じように夏夜のお陰で目を覚ましたのは橘明里だった。５分前は「先生の言葉の中に、答えが見える気がするの！」と閃き、よく聞いてそれっぽいのを答案に書き込んでいた。そしてよく聞いて、よく聞いて……眠り込んでいたのである！！
（試験は星座の内容じゃないですよね、ハイ。余計な時間を食ってしまったなの……）
　我に返って必死に問題を解く明里の目に入ったのは、前の席にいる真央の行動だった。
（！　そうか、耳をふさげばいいの！　あかりの頭にある髪飾りをちょっとずらせば、きっと塞げるの！！）
　閃いた、とばかりに髪留めを、耳を塞ぐように止め直す。と、少しは聞こえにくくなった気がする。少なくとも話に気を取られる事はないだろう。
　明里は必死になって問題を解く。それでもプラネタリウムも楽しむあたり、そつないのかもしれない。

（なるほど、ティッシュや髪飾りは考えなかったな）
　その様子を見ていた羽生碧南はなにか耳栓になるような物をさがすも、見つからなかった。どうしようか、と途方にくれていると……、耳元にこんな声がする。
『碧南、そこの答えは授業でもやった所だ。思い出せ、教科書の……』
（えっ？　この甘い声は……）
　突然聞こえた声に頬を赤く染める碧南。彼女の脳裏に浮かんだのは、クールな眼差しをした若い男性教師の姿だった。
（未開封のゲーム『REPLICA SONG』の、神宮先生……！？　まだプレイしていないのに何故？）
　多分、ネットや店頭で見たデモムービーの影響だろうと思いながらも、脳裏に浮かんだ男性教師は優しい眼差しで答案用紙と解答用紙を交互に指す。
『そこの問題の回答がわかるなら、次の答えも簡単だろう。その音楽家は同じ時代に生きているぞ。そして、ここの問題の答えは、ｂだ。それから……』
　という具合に碧南へ教えてくれているのだ。更に頬が赤くなる碧南は声に導かれるように答案を埋めて行く。勉強した部分の答えを教えてくれているらしい
（待ってて、神宮先生！　この試練を乗り越えて必ず先生の元へ行くから……！）
　碧南はそこから猛然と追い上げを見せるのだった。