寝子島３０００周年記念！｜リアクション

寝子島３０００周年記念！

＜桜庭円の未来＞
　玄関を開けると、にゃーくんが飛びついてきた。
　抱き上げて頬ずりをすると、桜庭円は話しかける。
「タイムマシンに乗れるよ！　にゃーくん！　一緒に行くよ！」

　現在の時間軸から８年後。
　まどか２５ちゃい。立志の日々。
　今より落ち着いて見えるのは外見だけ、内面は相も変わらず、思い込みが激しく好奇心旺盛。
　今日も所謂スパムメールの『タイムマシンに乗れます！　今すぐクリック！』みたいなトピックに早々に飛びついた。

「多次元で、可能性の世界って……博士は難しいことを言うね」
　多元宇宙。量子世界論。若干『メー』や『ニャンダーライフ』の路線だ。
　愛読者である円の、未来像は膨らむ。

　はたして、どんな未来が待ち受けているのか。

　どぼうぼしびてべ、ねこねーこ！

「あれー、ここが……３０００年後の寝子島？」拍子抜けした顔をする円。「あんがいふつー、今と同じ感じじゃん！」
　３０００の数値を示すタイムマシンのメーターを確認する。
　やはり未来。
　だがなだらかな丘陵に、生い茂る常緑樹。現在とさほど変わる様子はない。
「確かに、一見変化はないな」にゃーくんの言葉に、頷く円。
　その時、彼方に揺らぐ影。
「第一村人、はっけーん！」嬉々として走りよる円。「やっほー！」
　その足が、ぴたりと止まる。
　現れたのは、二足歩行する猫である。
「猫が…歩いてる」
「妙だな……猿人や、イルカを差し置いて猫が文明を作るとは……」
　いろいろだね、と頷いて、円は我に返る。
　自分は、誰と話していたのだ？

「にゃ、にゃーくん？」
　目を丸くする円に、はにかんだ笑みを見せるにゃーくん。
　タイムトラベルの影響で、知性が３０００年分進化したらしい……。
「にゃーくん、すごいっ！」はしゃいでにゃーくんを掲げる円。
「そちらの方……」村人ならぬ、村猫Ａが二人に近づく。「もしかして、にゃーくん様？」
「そうだが……なぜ名を知っている？」鋭く問う。
「有名な方ですから……そちらが円様」
「怪しいものじゃないので……人間って種族です」
「存じ上げております」ふっと頬をゆるめる村猫。「人間の方も、まだいらっしゃいますので……」
　言いつつ、村猫は二人を案内する。
「えっと、どこへ……」
「猫特区です。お二人様はＶＩＰですので……」
　
　その時、別の村猫が、血相を変えて駆け寄ってきた！

「た、大変だ！　強硬派の猫が……」

●
　走りながら、村猫は二人に説明する。
　進化により、知性を獲得した猫が、人間と同等になるのは難しかった。
　差別、戦争……人間同士の血腥い歴史が、猫との間で繰り替えされようとした、その時。
　立ち上がったのが誰あろう、にゃーくんその人。
　人に『猫権』を主張し、仲間の強硬派には、飼い主への信頼を語り、人間のすばらしさを説いた。
　彼の活躍により、猫は『猫特区』に住まうことで、人間と尊重し合う共存を続けられているのだ。
「へー、干支にも入ったんだ！」円は驚く。
「円様のころの我々は、四足歩行でしょうか」
「習ったの？」
「教科書で」言いつつ、三人は寝子島神社へ向かう。
　猫特区のあるあたり。そこから、煙がもうもうと上がっていた。

　陽を浴びて、金色にきらめくにゃーくんの銅像。
　その背後で、巨大な猫のぬいぐるみが荒れ狂っていた。
「同じ猫の間でも、争いはやまない。お恥ずかしい限りで……」頭を掻く村猫。

　そのとき、一人の少年が歩み出た。
　円は、彼を知っている。御剣刀。実に、３０００年の時を経ての邂逅。