悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女

Cinq.

　5月29日朝に時計の針を戻す。
　ルーアン郊外の小さな森の中で、額を突き合わせて相談をしているのはマルグリット救出班の面々だった。ジャンヌを逃がしたことを知ったイングランドは、面子を保つため、牢獄にいる姿かたちのそっくりなマルグリットを替え玉として処刑するだろう、というのが築地の伝えた情報である。
「表向きの歴史」を変えず、なおかつマルグリットを救うには、衆人環視の火刑台から彼女を助け出し、しかも火刑が完了したと民衆に納得させないといけない。相当な難題であった。しかし、常闇月の発した言葉が、突破口を与えようとしていた。
「皆さん―――私には、人形に憑依し、自らの肉体のように操るというろっこんがあります。何らかの形でマルグリットさんと密かに入れ替わることができれば、私の憑依した人形が火刑に処せられることになり、誰も死なずに済みます。どうやって入れ替わるかが問題ですが……」
「それなら、うちのろっこんが使えそうじゃのう」
　発言したのは北美浜薫子だ。
「うちは遠くのものを持ってくる〈お取り寄せ〉を使えるけん、離れていても、マルグリットを連れてこれるぞ」
「なるほど……でも、マルグリットさんと人形をどうやればすり替えられるでしょう？」
　月が疑問を挟むが、ミルカ・アハティアラがそれに答えた。
「わたしは物を瞬間移動させられます！薫子さんがマルグリットさんを連れてくるのと同時に、わたしが人形を送れば入れ替えできます」
「入れ替えは、どのタイミングでやるんだい？やっぱり刑の執行の直前か？」
　やり取りを聞いていた飛吹蓮太郎が問う。すり替えのタイミングは、あまり早くてもばれてしまうだろう。
「具体的には、マルグリットが火刑台に縛り付けられて、火をつけられた直後じゃなあ。処刑が行われる広場の様子が見える場所から入れ替え作戦ができるといいのう。なるべく風上で２階よりも上の部屋じゃ」
　薫子が言うと、蓮太郎が答えた。
「なるほど、それじゃ俺は、広場の火刑台の様子が見えそうな場所―――空き家か宿屋の一室を確保しよう」
「人形も、ただの木や布じゃ駄目だと思う」
　ここで、逆巻天野が発言した。
「ジャンヌの処刑は、ただ薪を積んで火をつけただけじゃなく、燃やされた遺体を何度も確認されたそうだ。すり替える人形は、人骨に動物の肉を巻きつけたりして、人間の肉体に限りなく近いものにしないとごまかせないだろうね」
「……。」
　それを聞いた神出鬼没は、無言でメモをつけ始める。
「必要なもの、こんな感じかなぁ」
　没の見せたメモには、こう書かれていた。
〈塗料、人骨、大量の肉、内臓、鬘、布、洋服、氷、スコップ、お酒〉
「お酒……防腐剤か？」
　天野に聞かれ、没は答えた。
「お墓暴くとき、墓守りに見つかった時の賄賂にしようかなぁ、って」