悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女

「城内の警備兵がまばらになったわね……」
　ジャンヌを抱っこして地下牢から脱出した蛇那伊が周囲の様子を伺う。
「どうも、城の外で騒ぎがあったらしいぞ」
　刀が答えた。
「とにかく、今のうちに城を出て、できるだけ離れましょう。幸い、誰も欠けていません」
　ナタリアに促され、ジャンヌ救出班は闇に紛れ、急いで城を後にした。門に一人だけいた番兵は海斗の棍棒であっさり倒され、ジャンヌはニコに庇われるようにして城の外に脱出した。

　ルーアンの街の裏路地に入り、一同はようやく落ち着くことができた。
「覚えています、貴方たちの中には、かつてオルレアンで私を助けてくださった方たちがいます。あの後どうなさっていたんですか？そして、どうして再び私を助けてくださったんですか？」
　ジャンヌが疑問をぶつけるが、状況を説明したところでわかってもらえるかどうか。
「事情はあとでゆっくり聞けると思うよ。今は急いで逃げる時だ」
　ニコがジャンヌに言う。
「それから―――2年前、僕からの忠告が不十分だったことを謝っておくよ。フランス語の読み書きだけでは君を助けるには足りなかったね。すまなかった。そのことが心苦しくて、そしてなにより君のことが気になって、こうやって飛んできてしまったんだ」
　ニコはそういって笑った。そして、ジャンヌの手を取って微笑みかける。
「君はひとりじゃない。君を信じている人たちも、助けようと動いている人たちもいる。だから、一緒に行こう」
　続いて黒子も、ジャンヌを勇気づけるように話しかけた。
「あんたも災難だな。神を信じて戦ってきたのに、こんな仕打ち受けて……ま、あんたは十分に頑張ったんだから、これからはあんた自身の人生を生きていけばいいさ」
　そう言うと、黒子は笑って舌を出す。
「あんたの人生に『幸運』あれってね」
「行けるところまで行き、しかるべき場所で死ぬまで精一杯生きろ……」
　口を開いたのは海斗だった。
「そういう思いから、主様がオラたちを遣わしたんだべ」

　ジャンヌ救出は成功した―――だが、やるべきことはまだ終わっていない。これから、ジャンヌを無事オルレアンに送り届ける護送班に引き渡さなければならない。
　1431年５月29日の深夜のことであった。