悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女

Six.

「麻袋をくださいなっ。お金はないけれど、これなら価値はあると思うんだ」
　維都月茉菜は、身につけていた銀のイヤリングの片割れを旅商人に示した。
「これは……立派な銀細工だな。いいだろう、何枚入り用だい？」
「一枚でいいけれど、一緒にお金とも交換できないかなっ？」
「ふむ、なら麻袋一枚と銀貨３枚でどうだい？」
「銀貨３枚だと、何と交換できるの？このイヤリング、結構な品だよっ」
　茉菜は、適切なレートで交換できるよう交渉する。銅貨２枚を上乗せしてもらった茉菜は、今度は生木の調達に足を運ぶ。

　ルーアン市街にも、治安を守るために巡回している兵士たちがいる。しかし、ここはまだ中世、軍規の緩んでいる者も少なくないようだった。
「おいピエール、ワインを調達してきたぞ」
「おう、警備任務も退屈だし、飲まなきゃやってられねぇ」
　まだ日も落ちきっていないのに、路地裏で酒を飲もうとしている兵士が２人いる。
「任務中に酒盛りとは、いいご身分だな」
　背後から声をかけられ、兵士たちは振り向こうとしたが―――
　強烈な一撃を頭にうけ、２人は地面に伸びた。風雲児轟は、手早く兵士たちの甲冑や装備を拝借、縛り付けて人目につかないところに隠しておいた。
　一着は自分が着込み、もう一着は戻ってきた維都月茉菜に渡す。茉菜は、性別がばれないように、顔を隠すように兵士服を着込んだ。偽兵士2人の完成だ。

午後、日はまだ中天にある。ジャンヌ・ダルクの救出に先立って、壬生由貴奈、風雲児轟、維都月茉菜、常闇月の４人はマルグリットのいる軽犯罪者用の監獄を訪れた。轟と茉菜は兵士の格好をして、看守の前で一芝居演じるつもりだ。
監獄入口の看守の前に、巡回を装ってなるべく自然に姿を見せる轟と茉菜。そこに、由貴奈と月が近づいていく。
「ここにいるお仲間には話ついてるんだけど、少しの間中にお邪魔できないかなぁ。どうしても会いたい人がいて。もちろん、タダとは言わないよ」
　そういって、由貴奈はあらかじめ茉菜から預かったもう片方の銀のイヤリングを見せる。
「袖の下というわけか。だが……」
　看守は興味を惹かれたようだが、ためらっている。由貴奈はついでに、常備しているおやつのクッキーも取り出した。
「これもつけとくよぉ。お菓子はめったに食べられないでしょ？」
「そういうのも、皆に通用はしないさ」
　轟は、完全に兵士の振りをして、由貴奈をたしなめる言葉を吐く。その上で、看守のほうに向かって釘を刺す。
「だが、賄賂のやり取りをしかけたことは、上にはばれない方がいいだろうな。あらぬ疑いをかけられそうだし……。今受け取らなくても、どうせ疑いの目で見られるだろうな」
　轟は横目で看守を見て、揺さぶる。茉菜が何も言わず、やり取りを見て見ぬ振りをしているのも効果的だった。看守の方は、「ほかの奴も賄賂をもらっているなら……」という考えに傾いていく。
「いいだろう。だが、わずかな時間しか認めんぞ」