悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女

　監獄の中に入った４人は、マルグリットのいる牢を探す。不審の目を向ける看守に対しては、茉菜は押し殺した低い声で応じる。
「軽罪者の見張りなど、自分たちだけで十分だ。持ち場に戻れ」
　聞き耳を立てそうな他の囚人は無言で睨みつけておく。
　マルグリットのいる牢獄を探すのに手間はかからなかった。彼女は、いつか戦場で目にしたジャンヌ・ダルクに確かに瓜二つだった。
　マルグリットと話している間、誰か来ないか轟が見張りをする。月は、後ろに控えてマルグリットの特徴や癖を観察していた。
「やっほ、名前は……マリーでいい？」
　マルグリットは、気だるげに由貴奈の方を見る。まだ若いにも関わらず、その目はひどく淀んでいる。茉菜はそっと祈りを捧げるポーズをし、ろっこん〈大天使の加護〉を発動させる。絶望していても心が元気になれば、人はかけられた言葉に希望を見出す。これで、少しでもマルグリットの気持ちが前向きになれば―――
「明日、君は火刑に処されるかもしれない」
「……例の噂になってる魔女と一緒に？それともその魔女の代わり？別にどうでもいいけど」
　マルグリットの言葉はひどくそっけなく、気だるげだ。
「……なぜ、君は自分すらも諦めてるの？実はね、うちも両親が死んで、財産を親戚に奪われかけたよ。負けなかったけど」
　由貴奈の言葉に、マルグリットは答える。
「負けなかった―――どうして？」
「それは、諦めなかったからねぇ。人の力に限界があるとしたら、それは諦めたとき」
　少し、マルグリットの目に光が差したように見えた。彼女は初めて顔を上げた。
「……もし生きる目的がないなら、うちのために生きてみない？」
「どういうこと？」
「うち、クッキー作るの大好きでねぇ。いいクッキーにはいい小麦粉が必要、だから小麦を作って欲しいな。パンを盗んだ罪滅ぼしとしても、さ？」
「小麦を、作る……？」
「そう、とても尊い仕事だよ。君に子供が出来たらその子にも作り方を伝えて……うちが必ず買うから」
　マルグリットは戸惑っていた。励ましや希望を与えるような言葉など、ついぞかけてもらったことがなかったからだ。
「明日、必ず助ける。だから、火刑にされるその瞬間まで、諦めないでね」
　由貴奈の言葉が終わると同時に、轟もマルグリットに声をかけた。
「俺たちの言うこと、色々信じられないだろうけど、一度でいいから俺たちを信じて欲しい。俺たちが、絶対に君を救うから！」
「助ける……私を？」
「そうだよ。うちらはこれで退散するけど―――今話したことは、決して誰にも言わないでね」
　謎の面会者が去り、姿が見えなくなっても、マルグリットはじっと檻の外を見つめていた。自分は本当に火刑にされるのか。そして、彼らが助けてくれるというのか。なぜだろう、少しずつ「死にたくない」という気持ちが芽生えてきていた―――