怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

【14時59分　スッテラ・デッラ・コリーナ】

　地震が発生してからおよそ30分後。
　八神修と常闇月はスッテラ・デッラ・コリーナの警備員につまみ出されていた。
「子供の遊び場じゃないんだぞ！　さぁ、帰れ！」
　門前払いを受けた２人は途方に暮れていた。
「……妙に警備が厳重だな」
　八神は魅紗歌のファンを装い、レストラン同階の部屋を借りようとしたが断られた。
　やむなく近い階層の部屋を借りて、大量のルームサービスを通じて魅紗歌へ食事を届けようと試みる。
　その配膳ワゴンにワイヤレスマイクを忍ばせておき、会話を盗聴しようと考えていた。
　しかし、ホテル側の日頃のセキュリティ意識が高いのか、あっけなくバレてしまった。
　八神は今回もうまくいかなかった。
「……もう一度、忍び込んでみましょうか？」
　常闇は無表情のまま告げた。
　本来ならば同階の排気点検口からレストランの天井裏に忍び込む予定だったが、階層違いの部屋を余儀なくされたためにレストランのある階へ潜入する必要が出てきてしまった。
「いや、あの厳重な警備を無理やり突破しようとすれば、却って俺たちが不利になる」
「やっぱダメか……」
　正装で腕を組み、ホテルを見上げるのは風雲児轟だ。
「せっかく八神の私物の衣装を借りたっていうのに、出番なしか……」
　彼は従業員に話し掛けて、八神たちの行動から目を逸らさせる役目を負っていた。
　だが、有無を言わさずに強制退去の厳重警備では無意味であった。
「これじゃ、完全に中の会話が分からないな……」
「……どうしましょうか、八神さん？　って、おや……？」
　常闇はロビーの奥から巨体の男が警備員２人に取り押さえられながら外へ放り出される瞬間を目の当たりにした。
「ん、尾鎌じゃないか！」
　風雲児はコンクリの地面に放り出された尾鎌に駆け寄った。
「大丈夫か？　何してたんだよ？」
「ちょっと、暇つぶしにスニークミッションをね？」
　埃を叩きながら尾鎌はなんの悪びれもなく言い放った。
「つまり私たちと目的は同じでしたか」
「あら、そうなの、常闇ちゃん？　でも警備が厳重すぎるわ……」
「しかたがない。俺たちはここまでだな……」
　八神は悔しそうにホテルを見上げた。
「せめてレストランの中が分かればよかったのだが」
「……もしかして八神ちゃん、令嬢からの夕食の誘いは断るつもり？」
「なんだそれは？」
　八神たちは潜入調査の手前、スマホは無音設定にしたまま。
　そして先程までＳＰと揉み合ってたため、最新情報のチェックを怠っていた。
「俺としたことが……」
「……というか、もう潜入する必要ないな、これ」
　風雲児の言葉はもっともだった。
「……堂々と入っていけますね、罠かもしれませんが」
　常闇は警戒心を緩めない。
「今日はどうも空回りしているな……」
　八神は自分の不甲斐なさに嘆息が出てしまう。
「そういえば、尾鎌はその情報を知ってて、なんで潜り込んだんだ？」
　風雲児の質問に、尾鎌は答えた。
「今日１日、令嬢を案内したけどやっぱり疑いは晴れなかったわ。本人は今日は争うつもりがなくて、誘拐や九夜山の衝突だって『色欲』の仕業らしいけど、教団の計画が頓挫しない限り、あたしはこの目で真実を見ないと気が済まなかったのよ」
　尾鎌の顔は普段の茶目っ気のある表情ではなく、真剣に考察する探偵のようなそれであった。
「他のみんなもお呼ばれされているから、あたしたちも行きましょう？」
　尾鎌を先頭に３人は今度こそ堂々とホテル内のレストランを目指すのであった。