怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

【13：16　１年５組の教室】

　教室に到着した２人は、机に突っ伏しているシグレの姿を目撃した。
「シグレ先輩！！」
　恵御納が駆け寄る。
「待って、恵御納。様子がおかしい」
　逆巻は恵御納を制止してシグレを注視する。
　シグレの身体は拘束されていない。
　にも関わらず、彼は自らの意思で椅子と机から体を引き剥がすことができずにいるようだ。
　シグレは歯を食いしばりながら目を瞑った。
「……ぬかったぜ。俺たちは……ッ、『部外者』に気を取られて……ッ、周囲の人間の変装のことが頭から抜け落ちていた……ッ！！」
　まるで催眠術にかかっているように、シグレは自身の意思に反して机に密着しているようだ。
「考えてみれば令嬢たちと違って『色欲』は朝イチからこの島に潜伏していてもおかしくなかった……ッ、そして教団が俺たちの身近な人間に対して何の躊躇もなく手を掛ける懸念も見過ごせなかったというのに……ッ！」
　シグレは歯を食いしばって立ち上がろうとするが、そうするればするほど身体は椅子と机に吸い付く。
「なんてことだッ！　おのれ『色欲』ッ！　この屈辱は忘れないぞ！　くそ、あの妙な宝石の能力で動けない！」
「そう、なら離れればいいんだね」
　逆巻は黒板から白チョークを１本拝借する。
「恵御納、シグレ先輩の周囲の机をどかして。僕のろっこんでこの現象を『反転』させる」
「……なるほど！　逆巻君すごい！」
　恵御納はシグレの周囲の机をどかして一定のスペースを作った。
「うん、充分だ。シグレ先輩、少し時間が掛かるからもう少し我慢してください」
　逆巻は教室の床に屈むと、白チョークで複雑な魔法陣を描き始めた。
　彼のろっこん『天邪鬼』は、自身が描いた魔法陣の中心に彼が入った時に効果が発動する。
　その効果は、陣の中で視認した行動の一部を逆さまにできるというもの。
「物体がくっついたり離れたりするのは、立派な物理現象だ。それが異能によって引き起こされたものであっても……」
　シグレと自分を囲うように陣を描き進める逆巻の手が止まった。
「――僕の陣の中では、反転させてみせるよ」
　立ち上がった逆巻がシグレを視認した、次の瞬間！
　陣がほんのり紫色に一瞬輝いたような気がした。
　次の瞬間、シグレの身体が突然、机と椅子から弾き出されて廊下へ飛び出てしまった！
「わぁ！？　だ、大丈夫ですか、シグレ先輩……！？」
「痛……っ、ゴホン、逆巻、手間を掛けた。助かった」
　こんな時でもシグレは紳士であることを意識させる振る舞いを優先した。
「シグレ先輩、野々はどこに？」
「そうだ、ののこちゃんは！？」
　２人の質問にシグレは頭を抱えた。
「……すまない、犯人とののこ嬢の行方が掴めていない」
「そんな……！」
　恵御納は愕然とする。
「すぐに黒依たちに連絡しよう」
　逆巻たちは【情報班】に緊急連絡。
　その横で恵御納が不安そうに呟く。
「ねぇ、この状況も『あの子』のせいにできないかな？　このままじゃフツウが危ないよ……」
「それがいい。捜索と並行してイタズラも少し施しておこう。ののこ嬢の目を逸らす必要がある」
　シグレもこれに同意。
　時刻はまもなく13時30分をまわろうとしていた……。

＜野々ののこ、『色欲』に誘拐される＞
＜情報班から作戦遂行者に緊急通達 → 『御神が“色”に連れ去られた。至急、学び舎へ急行せよ』＞