【エクストリーム☆サッカーwithモトクロス】

「この際、ツッコミは後だ……！」
　工藤 耀がそう言って、ぎゅうと拳を握りますと、
「ああ、これはチャンスだぜ！」
　六月一日宮 檸檬もこくりと、力強くうなずきました。
　英語。英語のテストのお時間なのです。ふたりともいちおー勉強はしてきましたものの、苦手です。今朝ほどの、頭を抱えながらの檸檬の言葉を借りるなら、『あーゆーあんだーすたーん？状態』であります。揃って赤点の、大ピンチであります！
　そんな中での、黒崎先生ご乱心。エクストリーム！
「こうなりゃ、派手に魅せつけるほうを重視するしかねー！」
「サッカーだ、サッカーしかねえ！　俺たちのテクを見せ付けながら、問題を解けば……！」
　二人はサッカー部所属、校庭にはもちろんサッカーボールにゴールだってあるわけでして、特技を活かさない手はありません。もう、やるっきゃない！
　と言ったところで……どるるるるんっ。
「あれ、楢木？」
「そういうことなら、俺も乗らせてくれよ！」
　バイクに乗ってどるるるるん、檸檬の桜花寮でのルームメイト、楢木 春彦も参加を表明！
「お、檸檬の友だちか？　ま、よろしくなー」
「ああ、何とかして赤点回避してやろうぜ！」
　耀は彼とは初対面、けれど顔を合わせてみれば、なかなか頼りになりそうです。
　春彦のバイクはいわゆるモトクロッサーで、これを用いてエクストリームなトリックをキメる競技が、ＦＭＸ……フリースタイルモトクロス。ド派手なパフォーマンスが期待できそうですし、そこへ耀と檸檬の得意なサッカーまでもが加わったなら、きっと試験監督の先生方からだって、高評価を引き出せそうな気がしてきます。
　檸檬が手を振り上げ、
「楢木と工藤と一緒にパフォーマンスすりゃ、百人力だぜ！　やってやろうぜ！」
「「おう！」」
　……まぁ、合流した春彦も含めまして、誰ひとりとして英語に自信が無かったりするあたり、懸念事項ではありましたけれど……だからこそ、のエクストリームではあるわけでして。
　三人は、気合十分！　テストに臨むのであります……！



　しばしの後、用意されましたのは、サッカーゴールを４分割して、Ａ・Ｂ・Ｃ・Ｄの文字が掲げられたパネルたち。
　アレです。どこかの筋肉系テレビ番組で見たことがあるような、正解のパネルを狙ってボールを蹴り込むやつです。
「選択問題はコイツでパネルをぶち抜けば、パフォーマンスにもなるだろ！」
　という春彦の言葉に、サッカー部コンビも揃って同意。確かに見事正解パネルを捉えることが出来れば、これ以上に無いパフォーマンスと言えましょう……そして三人とも、これには自信アリ！
　ちなみにですけれど、彼らは身体を使って解答していくのに忙しいもので。彼らの口頭による答えをもとに、答案用紙への代筆をお願いしましたのは、
「なるほど！　このパネルをエクストリームに蹴り抜けば、僕も目立てる……えっ代筆？」
　たまたま通りがかった黒崎先生でした。よろしくお願いします。
「……えっ？　いや、僕も目立つことを、えっ？」
「よーし、行くぜ！」
　これで心置きなく、パフォーマンスに専念できますね！
　というわけで、まずはトップバッター。耀のチャレンジ！
「頑張れよ、工藤！」
「派手に決めてやれ！」
　選択問題の内容を確認して、檸檬と春彦のエールに、さっと手を上げて応えてから。
　とんっ。足元のサッカーボールを慣れた足さばきで蹴り上げますと、とん、とん、ととんっ！　爪先から膝、膝からかかと、時には頭の上を飛び越えて、再び爪先へ。肩を使ったり、ヘディングしたり。巧みなリフティングを披露！
　試験監督たちからも拍手を得て、まずはひとつ好印象。
　魅せることを重視した、いわゆるフリースタイルフットボールにも、様々に高度な技がありまして。空中に浮いたボールの下へ足をくぐらせる『アラウンドザワールド』、身体の一部にボールを留め置く『ストール』、ボールを挟み込む『クラッチ』に上半身を使った『アッパー』に……などなど、とにかく多彩な技の数々を、耀は軽快なリズムと共に、華麗に次々と決めていきます。
「リフティングしながらだと、頭が冴えてくるよな……」
　ぽつりつぶやくと、分かる分かる、と檸檬もうなずきまして。
　とんっ！　大きくボールを浮かせたところで、
「答えは……Ｂだ！」
　思い切りシュート！　ボールは狙い違わず真っ直ぐに、すぱーん！　Ｂのパネルを抜くことに成功しました。お見事！
　答えはＢ……と、かりかり。黒崎先生が鉛筆を走らせ解答を代筆、という地味な作業に従事する中、耀は転がって戻ってきたボールを蹴って、檸檬へとパス。
　次は、檸檬のチャレンジ！
「英語はいまいち分かんねーけど、サッカーなら……！」
　ボールを蹴って駆け出した檸檬は、華麗な技を組み込んだドリブルを見せ付けます。立ちはだかるディフェンダーの合間を縫うように、右と見せかけて左。左と見せかけて右！　フェイントで翻弄した後は、ヒールでボールを高く跳ね上げ、頭の上を通過させてキャッチ！　そのままグラウンド中を駆け巡るほどの勢いで、ドリブル！　ドリブル！
　ついでに程よく汗をかいてきたところで、檸檬はリストバンドへちゅっと唇を寄せますと……ほわわわわん。レモンの芳香がふんわりと、風に乗って広がって、なんて爽やか！
　ゴールのまん前、ちょうど良い位置へ走り込んだところで、檸檬は高くボールを跳ね上げて、
「この問題は、ヤマ張ってたんだ！　答えは……Ｄだ、いけーっ！」
　なんとくるりと一回転、ド派手なオーバーヘッドキック！
　狙いだって抜群、真っ直ぐに綺麗な軌跡を描きながら、ボールはＤのパネルを、すぱーん！　撃ち抜きました。一応勉強もしてきたもので、ヤマもばっちり当たって、きっと正解なはず。多分！
「ホズミヤも工藤も、すげぇな、サッカー部……俺も負けてらんねぇよな！」
　どるんっ！　お次は気になる、春彦のチャレンジ！
　何せ彼はサッカー部では無くて、そしてバイクに乗っているのです。ボールをどのように扱うのか、傍目にはちょっと想像が付きません。
　さっそく回り始めたタイヤが土煙を上げて、バイクはトラックを疾走！　そこへ、耀がボールを高々と蹴り上げて、
「行くぜー、楢木ィ」
「ああ、任せろ……答え、Ａっ！」
　春彦は車体を沈ませてから……驚きの、大ジャンプ！　ギャラリーが思わず宙を見上げたところで、空中で片足をステップから離して、ドンピシャなタイミングで飛んできたボールを、キック！　フリースタイルモトクロスの数あるトリックの中から、『ナックナック』のモーションで、見事にシュート！
　さすがにサッカー部の二人と比べれば、シュートの精度は落ちましたけれど、どうにかすぱーん！　とＡのパネルを抜きました。どうやってバイクでサッカーボールを蹴るのかと思いきや、ド派手かつアクロバティックなパフォーマンス。実にエクストリーム！
「よし！　英語の試験とかマジ死ぬって思ったケド……これならいけっかもな！」
　にっと笑って、春彦が振り返れば。檸檬と耀も何だか手応えを感じてきて、
「ああ！　絶対赤点は回避すんぞ、楢木、工藤！」
「俺たち、こいつに賭けるしかねえからな……！」
　その後も三人は、選択問題は技をキメつつパネルを抜くことで解答し、筆記問題などはリフティングしながらの口頭で、あるいはバイクで大ジャンプしながらの手離し解答などなど……様々な離れ業を披露しながら、順に解答用紙を埋めていきます。
　問題はまだまだ残ってはおりますものの、どうやらここまでは、試験監督たちの評価も上々のようでありました。

高野先生：９点「いいねぇ、私はこういう派手なのは大好きだぞ！（にっ、と白い歯見せながら）」
泉先生　：４点「サッカーにバイクか、こいつはなかなか、ロックなコラボレーションじゃないか？」
樋口先生：５点「三人とも、良いチームワークね、素敵だわ。友だちや仲間は大事にするべきよね」