【エクストリーム☆フィニッシュ！】

　かんかんかこん、かかっかこん。跳ね回るピンポン球が、軽快なリズムを刻みます。
「僕も混ぜてくれッ！　今なら、今の僕なら、目立つはず……！」
　ばばん！　扉が開く音と共に、教頭黒崎 俊介、乱入！　書類の束を携えて、ラケット持って。エクストリーム☆職務を敢行！
「来たか、地味の人……ってめちゃ派手になっとるー！？」
　九十九髪 夜光の頭が、きらりん☆　そのまぶしい光にも負けないほど、黒いスーツをネオンカラーの蛍光塗料で彩られたド派手な黒崎先生も交えて、卓球勢はかこかこかこん、五つ巴の戦いへ。
「なかなかやるね、修！」
「そちらこそ、さすがだよ、桜崎。さあ、俺たちにしかたどりつけない高みへと……！」
「ああ……打つッ！」
　乱れ飛ぶ英文問題、解答しながらかんかこん。
「最高だね、あんたたち！」
　高野先生のラケットも唸り、ぶおん、かこん！
　三宅 葉月は鉛筆さっさっ、見事な情景を描いたスケッチを次々と、さらさささっ。
「……何だか、興が乗ってきたみたい」
「音が、全てを巻き込んでいく。私たちも巻き込まれたか……ま、構わないけどね」
　旅鴉 月詠と一緒に、しゃかしゃかさっさ、さらさらさささ！
「講堂の汚れは、徹底的に排除ですよーっ！」
　椿 美咲紀はだだだだだっ、雑巾がけをきゅっきゅきゅきゅ。彼女が通った後の床はもう、ピカピカ、きらり！
　びゅっばっ、しゅばっ、鋭い呼気と共に風を裂き、
「奈良橋流の真髄、見せてやるぜ……！」
　奈良橋 博美は流麗な演舞を、一心に、ひたむきに。時には跳んできたピンポン球を敵の攻撃に見立て、ばしっと弾き返しながら……しゅば、ばばば、ずばっ！
　とっておきの合いの手は彼の声。
「……ウウゥ……！」
　破滅のプレッシャーに耐えながら、漏れた骨削 瓢の呻きもまた、講堂を満たすメロディのひとつ！
　雨寺 凛は、音海 なぎさは、それらの音の全てを束ねて、ひとつの音楽へと練り上げていきます。
「さあ、ラストスパート！　みんな準備はいい？　いっくよー！！」
　凛が叫べば、講堂の生徒たちが一斉に、どんどん。足踏み鳴らして、イェーーーッ！！
　ずんずんちゃかちゃか、ビートに乗せてなぎさもステップ。マイク片手に韻を踏みふみ。

　　　　　　♪
　　　　　　　さぁさ皆でクラップ・ユア・ハンド！　答案かくのは忘れるな！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　　　　それさえ守ればフリーダム！　さあとべ、さあいけ、さあさあさあ！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪

　そろそろ、テストも終了の頃合。問題を全て埋めると、修はピタリと足を止め、答案の提出場所へと、自然な仕草で自分のそれを乗せました。
「ふふ……最後にここへたどり着くよう、計算してプレイしていたのさ」
「やっぱりあんた、大したもんだ……ねッ！」
　巴は答案用紙をくしゃっと丸めて、スマッシュ！　所定の場所へと叩き込んだそれを、ちょうど用紙を提出しにやってきた大貫 征治が、
「おっと。しわだらけじゃないか」
　アイロンしゅっしゅ！　ピッシーッと伸ばしてあげました。
「……何でアイロン……やっぱりさっぱり分かんないのだ」
　と、一緒にやってきた李 小麗は答案用紙を出しながらに、首を傾げましたけれど。
　ともかく……ずんちゃかずんずん、かんかんかこんっ。さらさらさっさ、「ウゥゥッ！」　きゅっきゅっきゅきゅっきゅ、しゅばずばびゅっ！　エクストリームなリズムは頂きへと駆け上がり、今迎える、最高のフィニッシュ！
　最後の瞬間に。
　ぱりーーーん！！
　講堂のガラスを突き破り……あらゆる障害を乗り越え、ぼろぼろになりながらも通学路を突き進み、壁を登り塀を越え。ようやくにしてたどりついた……佐藤 タカシ！　今、エクストリームに、到着！
（間に……合ったッ！）
　用紙へ、しゅばばっ！　彼が名前を書き入れた瞬間が、テストの終了の合図となりました。
　タカシは、問題を解くことはできませんでした。けれどその顔は実に晴れやか、満足げに見えたということです。

高野先生：10点「いやーっ、楽しかったな！　最高にエクストリームだったよ、あんたたち（カカカ！）」
泉先生　：５点「君たちのロックな生き様、しかとこの目で見届けさせてもらったよ。ラブ＆ピース！」
樋口先生：８点「私も参加したかったわ……でも、みんなお疲れさま。素晴らしかったわよ！」



　一限目の終業チャイムが鳴り、英語のテストが終わりを告げた直後のこと。答案用紙を提出しにきた工藤 耀、六月一日宮 檸檬、楢木 春彦の三人は、
「えくすとりーむ……？　何を言ってるんだい、答案が全てに決まってるじゃないか」
「「「はああああ！？」」」
　一点の汚れも無い黒スーツに身を包み、きょとんとしつつの黒崎先生の言葉に、一斉にあんぐりと口を開けました。
　テストの終了と同時に、神魂の及ぼしていた影響もどこかへ散って、消えてしまったようなのです……後に残されたのは、それぞれの提出した答案用紙だけ！
　我に返った生徒たちの慟哭が響き、試験監督の先生たちも首を傾げるなかで、スマホを眺めた瓢さん。
「……勝ったァァァアアア！！」
　ただひとり、歓喜の声を上げました。確認した株価がなんとびっくり、予想外の急成長！　これぞまさしく、一攫千金！
　株を買ったという事実までもが、神魂と一緒にスッパリ消えていることに彼が気付くのは、もう少し後のことです。
「言わぬが花、というやつだね。クロサキ先生、私も提出を」
「うん、お疲れさま」
　月詠が差し出した用紙は裏返し。黒崎先生、笑顔でそれを受け取りました……彼女が最後の最後に突っ込んだネタ、テスト裏に３Ｂとか６Ｂとかの柔らかく薄い鉛筆を使ってさらさら、さらりと描かれた、大変にウッスィー教頭先生の胸像には、気付かないまま。リアリティを追求し、可能な限りウスく描かれた黒崎先生のお姿は、忘れた頃に誰かの目に留まり、度肝を抜くことでしょう。
　特に体育会系パフォーマンスに全力を注いだ面々は、用紙を提出するなりぐったり、その場にヘタリ込んでしまいましたけれど。その中で、奈良橋 博美がぽつりと、言ったのです。
「でも……みんな、良いパフォーマンスだったよな」
「……ああ！　それに、楽しかったよな！」
　風雲児 轟が朗らかな笑顔を浮かべれば、羽生 碧南も、
「まぁ、たまにはこういうのも、悪くは無いかもね」
　と、やけにすっきりとした顔。
　結果はどうあれ、みんな何だかんだで、この時間を楽しんでいたのかも知れません。
　神魂がもたらした奇妙なひと時、エクストリーム☆中間テスト。その終わりに、
「そうなのだ過去は振り返らないのだ、真央ちゃん全開でやり切ったのだ大満足なのだ♪」
　へろへろな手で書き入れた解答はもはや、これって何語！？　なアリサマではありましたけれど、後木 真央は爽やか元気に、すぱん！　答案用紙を提出し、にっかりと笑ったのでした。
　そう。結果なんて、気にしない！　赤点取ってがっつり補習になったって、それもまた青春。エクストリームな人生の１ページに、変わりは無いのですから……！
　ねっ！