時間を切り取るカプセル｜リアクション

時間を切り取るカプセル

　　【いつか、並んで光が見られる事を信じて】

　
　恵御納夏朝が寝子島ロープウェイ“展望台前”に降りた時、傍のタイムカプセルが置かれた長テーブルの奥の方に油彩で描かれた一風変わったタイムカプセルを見つけた。

　横に、橙色のレースを巻きつけていったかのような、綺麗なカプセル。
「うわぁ、カプセルが沢山……
　ハルくんと同じ色だね。よし、これにしよう」

　手に装着されたパペットのハルくんと似た、淡い橙の模様が描かれたタイムカプセル。
　どうも、先に来た絵心のある人のご厚意らしく、それにしては余りに素敵な出来栄えに逆に申し訳なく思うほどだった。

　タイムカプセルに入れるのは紙類が殆どだ。
　夏朝は一度書類を整理しようと、書き物用の長机の上に開けたタイムカプセルと、バッグの中から沢山の紙の束を折れたりしないように丁寧に引っ張り出す。

　それは、寝子島に来てから見た、撮った写真・描いた絵・書いた文……それはもう、とにかく色々。

　良く見れば、猫の王さまの絵と一緒に、
　本物は大事に保管中であるが、後にもらったトパーズに似たキラキラと光る石を写した写真も一緒に揃っている。
　石そのものは、今も思い出として、大事に保管してある──

　詰めるのに大変になってきた為、パペットのハルくんを一旦外して、それ以外にも大切な思い出の手紙や、描いた絵などを詰め込んで行く。

「ののこちゃんが高校生活を終えたら……
　彼女やテオ君は、どうなるんだろう」
　ののこの満足いく生活が送れ、ろっこんや神魂がなくなった時、空のかなた、神の世界に帰るのだとしても、できれば忘れたくない。
　そう思いながらののこやテオの写真も一緒に詰めた。
　一緒に、大事な仲間や友達、家族が写った写真も一緒に入れていく。

　紙はかなりの量だったが、左右に回して封をするタイプのカプセルの為、上下の下から溢れ返っても、上にまで収納が利く、紙ならではと言える状態だった。

　夏朝は、まだまだ入ると確信して、そしてバッグの中から、そっと封筒を取り出した。
　彼女はこの日の為に手紙を書いてきた。
　そして、それらは今までの写真などと比べて、同じ位大事なもの。

　一つは将来の自分に向けて。
　もう一通は──自分の中に、別の人格として存在している……【夏夜】という女の子に向けて。

　ある日、一つの過去があった。
　それは一人の少女には余りにも残酷で。

　その凄惨さに耐える為に、少女は自分の中に“もう一つの心”を作った。
　それが──夏夜。記憶の共有はされないけれども、今までずっと、共にいた少女。

「『自分宛と夏夜ちゃん』にむけて……」
　呟きながら決意と思いを込めて。
　書き出しは、
“いつか、僕と夏夜ちゃんが二人並んで、
　この手紙を見ている事を願っています。……甘いかな”
　書いていた時に甘いかなと思った文章は、今読めば思いの外しっくりと来た。
　そのまま、書きあがった手紙に滑らすように目を走らせ、緊張で胸を高鳴らせたまま、改めて封筒に入れて、封をする。

　それをタイムカプセルに入れて、他に何か入れ残しがないか自分のバッグを確認した時、夏朝はそこに全く入れた覚えのない大きな封筒２枚を見出した。
　片方の封筒には付箋が付いている。

【夏朝へ　カプセルに余裕あるなら封入希望】

　その文字は見覚えがある。夏夜のものだ。
　大きな封筒は２通。宛名はやはり“未来の夏夜のもの”と“未来の夏朝のもの”

　彼女も、未来と今に思いを込めたのだろうか──まさに、今の自分と同じように。

　夏夜の残した中身は非常に興味引かれるものであったけれども、封を開けたい誘惑をひたすらに我慢する。
　夕暮れの光の中、それは決して開ける事の無いまま、タイムカプセルにそっと収めた。

　お互いの手紙を読むときは、お互いの未来が寄り添いあって、眩しい光あふれる時である事を強く願って。