時間を切り取るカプセル｜リアクション

時間を切り取るカプセル

　　【タイムカプセルは突然に】

　学校内に、全ての時限に終了を知らせる鐘が鳴る。
　皆が思い思いに帰って行く中、そこには張り出されている掃除の当番表を睨み付ける様に見つめる、一人の少女の姿があった。

　設楽千聖──右目に薔薇をあしらった眼帯を身に着けた、赤のリボンが黒髪に映えるツインテールの少女。
　よくよく見れば、瞳も真紅。風紀に触れる為、今着ている服こそ制服だが、それ以外はギリギリの限界まで異界の魔王に愛された様な少女だった。
　それは、全て、たった一つの異世界の魔王の刻印により発動された結果であった──その刻印の名前は……“ちゅうにびょう”

「し、設楽──今日は掃除当番だから、黒板の掃除頼ん──ひっ！」
　言葉の代わりにギリィッと睨み付けられた視線に、他の掃除当番の生徒も思わず逃げ出す。
　そう、千聖には“メタリカ”という魂に刻まれた真の名があるのである。
　その為、設楽も千聖も記号以下。本来ならば呼ばれて振り向くにも値しない。

「この私が黒板掃除とは──服が粉っぽくなってしまいますではありませんの。
　……仕方ありませんわね。これも一時的にとはいえ“機関”の目を誤魔化すためのこと。あの壮絶な過去を思えば、今の隠遁状態は悪いものではありませんわ……」
　ふっ、と遠くを見ながら呟きつつ、黒板を拭きながら過去を追想する。
　それはここの文字ではとても表せない程の“機関”という組織との凄惨な争いと対立の歴史。彼女はそれを振り返りながら、黒板を消していく。
　もちろん思考が声として駄々漏れになっている為、黒板を拭く姿はとても一般人が近づけるものではない。
　見る者は戦慄し、ある者は逃げ帰る。そんな光景をものともせずに、黒板を拭き続ける千聖に声が掛かった。

「メーちゃん、メーちゃん」
　魂に刻まれた名──もとい、そのあだ名に顔を向けると教室の入り口のところで、クラス違いの海晴・メルブリーズと一学年上の七雅麗音の男子２人がたって教室を覗き込んでいた。
　二人とも芸術科“ちゅーに”に理解ある、素晴らしい千聖の友人である。

　千聖は黒板消しもそこそこに切り上げて、二人の下へと綺麗な足取りで傍に向かった。
「ナナミヤ、ミハル。
　お二人ともどうしましたの？　はっ！　もしや組織の新手が……！」
「ああ、違う、リカちゃん違うよ～。
　さっきね、レオ先輩が面白いものもらってきたんだよ」
　そうのんびりとした口調で答えたのは、同じく１年生の海晴だった。
　その言葉に合わせて、１学年上の麗音が何かがプリントアウトされた紙をひらひらさせて、傍に辿り着いた千聖に良く見えるように渡す。

「タイムカプセルを埋めよう……？」
「ねっ、良いと思わない？
　メーちゃんと、海晴ちゃんと私とで何か埋めましょうよ？
　私達の思い出の一環として、ね♪」
　姉がいる影響なのか、それとも何か他の要因があるのだろうかすらりとしているが華奢では決して無い、無駄な筋肉の付いていない美男子、七雅麗音が見事にオネェな言葉を口にする。
　そんな三人は、改めてチラシを囲みながら、用紙を覗き込んだ。

「場所が山ですから虫除けスプレーが必要ですわね……」
　秋も深まる中、それでも用心は欠かせないと千聖は告げる。
「確かにそうだねぇ。
　それから……何を入れようか～」
「そうね、肝心のそれが決まらないと……」
　しばし、３人の中で沈黙が落ちる。
「あぁ、そうだわ！　何か一つ３人でお揃いのモノを入れましょうよ！♪」
　目を輝かせて、麗音が思いついた様子で軽く顔の前で手を合わせる。

「……それでしたら──」
　それに沿うような千聖の言葉に、その場の３人の表情は一気に輝きとやる気に満ち溢れた。
「それじゃあ、急がないとねぇ」
「そうねっ。今からでは準備してもギリギリ間に合うかどうかだものっ」
　いつもは機会があれば一緒に帰る事も多い３名だが、今日はどうしてもそれらの準備の為に、今回は各々が散って帰ることとなった。

　残された千聖が手の中にある黒板消しを見る。

『黒板消しが、反逆を起こしたので帰ります』

　そんな言葉が千聖の頭の中に浮かんだが、それが起こったが最後、休みの明日はともかく明後日がどうなるか分からない。
　千聖は仕方なく地道に再び黒板の掃除を再開した。
　明日、タイムカプセルに入れるもので千聖にもやるべき事が出来た。ただ惰性に任せて掃除するのとは違う。先程の３倍程の猛スピードでパーフェクトなまでに黒板を綺麗にして、千聖は教室を後にした。

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