昼下がりの猫まみれ｜リアクション

昼下がりの猫まみれ

　猫まみれの後木真央が伝家の宝刀とばかりポケットから取り出したパック入りの鰹節粉を一袋分けてもらい、佐藤プリンス雄太はゼロ・シーアールシーと仲良く並んで猫に食べてもらう。
「ヘブンパワーアップなのだー！」
　鰹節粉と一緒に取り出したマタタビ粉を掌に乗せた途端、興奮した猫たちに襲われ、猫タワー状態になって、真央は息切れするまで楽しい笑い声をあげる。
「やあ、絶好調ですねえ」
　カラリと格子戸を開けて出てきたほろ酔い気味の久須部紀伸が、猫を猫可愛がりする宇佐見満月と維都月茉菜を、紅葉を手に猫と遊ぶ神代千早を見て温和に微笑み、
「後木さん、焼き鳥が出来たそうですよ」
　ついでに店内の女将から言伝を真央に届ける。
　持ち帰り用の焼き鳥を頼むために店内に顔を覗かせる御剣刀と橘千歳に場を譲り、紀伸は店の外に出る。ちらり、まるで後に見えない誰かがついて来ているかの如く、親しげな笑み含んだ視線を背後に投げる。
「ありがとなのだ、後で行くのだ！」
　飛び掛ってくる猫たちを体全部で受け止め、一緒になって地面に転がりながら、真央は屈託ない笑顔を紀伸に向ける。
　全財産が焼き鳥に化けたけれど、悔いはない。
　柔らかくて温かくて、時々爪や牙で痛い目を見せにくる、優しくて気紛れで強かな生き物を抱きしめる。もう一度、笑う。笑える。
（この島で）
　大親友を見つけた。
　ろっこんにまつわる不思議な事件に関わることが出来た。
（この島での思い出だけで、いい）
　ずっと、もう独りでも生きていけそうな、今はそんな気がした。
　猫たちの温かさと猫たちにしみついた日向のにおいが、目眩がするほどに、切ない寂しさが吹き飛ぶほどに、嬉しかった。
　猫が居なくなるまでここに居よう。猫の傍にいよう。傍にいてもらおう。
　猫たちがここから居なくなる頃には、
（その頃には、）
　ポケットに隠したスマホをぎゅっと握りしめる。
　その頃にはきっと、胸を騒がす火種なんてもうどこにもなくなっている。
　胸に燻る火種などお構いなしに擦り寄ってくる猫たちを撫でて頬擦りして、真央は悩み事など何もないかのようにどこまでも明るく笑う。
　真央から少し離れた場所で、真央と同じように猫だるまな椎名あさひがふと首を傾げる。
（あれ？）
　いつもと何だか笑い方が違うような気もしたけれど、
「あ、今のお顔かわいいー」
　目の前の子猫が見せたきょとんとした顔に、あさひは釘付けになる。写真撮らせて、と大慌てでカメラを構えた瞬間、好奇心旺盛な猫たちに群がられた。
「あっ、そんなに近くじゃ撮れないよー」
　カメラを構えながら後退りして、
「あれれ、どうしたの？」
　猫を羽交い絞めにして頬擦りするお姉さんより後に下がった途端、それまで足元に絡み付いて居た猫たちが、蜜柑の皮をうっかり引っ掻いたような顔で一斉にあさひから離れた。
「もうあさひにくっつき虫はおしまい？」
「なるほど、そこから下がれば猫たちも離れるのか」
　あさひは、頷くピーター・ビアズリーをファインダー越しに見る。
「よっぽどここが気に入っているんだねえ」
　ピーターはまだまだ可笑しなくらい猫だるま状態で、折角だからもっと写真を撮ろうとあさひは楽しくなる。
「ほらほら、おじさんもおにーさんもおねーさんも、みんな動いちゃダメだよー？」
「あさひ君、記念撮影かい？」
「うん、きねんさつえいー」
　ピーターに答えながら、あさひはまた首を捻る。
（あれれー？）
　さっきまで店先に居たはずのゼロが、いつのまにかどこにもいない。
「いいねえ、一枚お願いするよ」
　みんなの写真を撮るべく、一生懸命にカメラを構えるあさひに、思い思いに笑みかける猫だるまたちを眺め、ピーターはあさひがこれから撮影し、現像する写真を思う。きっとみんな素敵に写っていることだろう。
（猫がいなくなったら、手を繋いで帰ろうか）
　それまでは、こうしてみんなで猫まみれ。

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あとがき

担当マスター：阿瀬春
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　お待たせいたしました。
　猫まみれのひととき、お届けです。

　これだけたくさんの猫を書いたのは初めてでした。猫のかわいらしさが少しでも描けておりましたらいいのですが。
　……わたしも猫まみれになってみたいです。いいなあ、寝子島。

　ご参加くださいましたみなさま、エントリーくださいましたみなさま、読んでくださいました方、ありがとうございました。
　少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。
　ありがとうございました。

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