さぁ、メンタルトレーニング合宿だ！　in　錬心寺｜リアクション

さぁ、メンタルトレーニング合宿だ！　in　錬心寺

　本日最後の修行は、精進料理の調理体験である。今回は秋の味覚を使ってのてんぷらや混ぜご飯、がんもどきなどを作る事になった。
　相原まゆは、冴木竜司が意外にがんばっている姿を目撃していた。座禅も叩かれる事無く終え、説法や写経、調理体験もきっちりこなしていた事にまゆは内心驚いていた。
「まゆ先生、今日は一日お疲れ様でした」
「竜司くんもがんばるわね。意外だったわ」
　まゆが感心したようにそういえば、竜司は苦笑して「そうですか？」と返す。彼の場合中学時代までに親から厳しく育てられ教え込まれたが故であり、相当精神力は強いようだ。それでも悟らせず、竜司はにっこり笑う。
「まぁ、伊達に陸上をやってないってことですよ。そんな事よりっ、精進料理の準備ですよ！」
　と、手早く準備を進める竜司。彼は実にいい笑顔で
「身体にもいいそうですし、俺、まゆ先生の為に愛情こめて作ります！」
「うん、嬉しいけど面と向かってそう言われると恥ずかしいわね……」
　まゆは竜司の言葉に少し赤くなりながらも苦笑していた。元々料理の腕はそこそこあると自負するだけあり、手際はよい。
（がんもどきぐらいなら、見栄えよく作れるぜ！）
　張り切る竜司の姿に、彼を知るもの達は相変わらずだなぁ、と苦笑する。
（御剣は、辛いものが苦手。桜庭はピーマンが苦手だから小さめに。それから……）
　逆巻天野は手馴れた手つきで知る限りの情報を使い、ご飯の硬さや味付け、調理法などの心がけを加えた調理をする。
「へぇ、なかなかのもんだな」
　竜司が感心したように言えば、十文字若菜も肯く。彼女は食材の数々に「こういうものをつかうんだね」と目を輝かせながら、住職の指示に従って料理を行う。
「これでも、料理は人並みにできるもんね。しっかりがんばるよ」
　と、てきぱき動きながらも、出来ていく料理に意外性を覚える。
「あんまり堅苦しい物じゃないですけど、これを食べる事も立派な修行の１つなんですよ」
　くすっ、と笑いながら静天が言えば、竜司たちは肯く。静天は笑顔のまま天野へとかたりかけた。
「貴方の料理には、もてなしの心とやさしさが見えますね」
　その言葉に、天野はきょとん、としてしまう。静天は穏やかな目で天野に笑いかける。天野はなぜか胸の中があったかくなるような、どこか懐かしい物を覚えて一礼した。
　
　出来上がったところで配膳し、みんなで食べる。その風味の豊かに歓声が上がる。若菜もまた美味しくて、嬉しくなって顔を綻ばせた。色々辛い思いをした碧南もまた、美味しい料理で疲れが癒えていく気がしたようだ。素朴なご飯は、他の生徒たちにも好評だ。自分たちで作った分、より美味しく感じるのかもしれない。
（毎日は辛いかもしれないけど、こういうご飯もいいなぁ）
　そう思いながら若菜は美味しい料理に舌鼓を打ちつつ調理のときの話をしていると、碧南共々こんな光景を目撃していた。
「俺、まゆ先生のためにがんばりました。受け取ってください！」
　と、差し出された料理の数々にまゆだけでなく空也や巧も興味があるらしい。なかなかの出来に料理に興味がある者達は注目する。まゆは「ちょっとだけね」とがんもどきを口にし、それがとても美味しかったのか目を丸くする。ありがとう、と照れたようにそういえば、竜司は小さくガッツポーズをして礼を述べ、喜ぶのだった。
　一方、天野はちょっとした工夫や気遣いが知人たちに喜ばれ、すこし照れていた。もし、嫌がるようなら止めようと思っていたが、調理中も礼を言われるばかりで、内心くすぐったい思いをしたのだった。

　１日目の夜は入浴時、プリティヴィが何か誤解し「釜茹で苦行ですか？！」と住職に問いかけて穏やかに「違います」と言われるという事を除けば概ね穏やかに過ぎた。