寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！｜リアクション

寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！

「奢ってくれるのなら手伝います」
「えっ？！」
　陽太がちょっとびくっ、と体を引きつらせる。蒼志が真顔だったからだ。そして過去に奢った際の事を思い出したのかもしれない。
「大丈夫っす。流通が良くなればまた財布も潤うっす。んで、ちゃんと今回は加減（＝男子高校生並か少し上位の食欲）しますから」
「その言葉がすっごく不穏！　……まぁいいけど、キミ結構食べるからなぁ」
　陽太が険しい顔になる。この島の流通より先に自分の財布が危機を迎えるかもしれない、と思いつつも彼は気を取り直してぽん、と手を叩いた。
「ま、五十嵐博士って何だかすごい技師さんみたいだし、もし無事に護衛できたらカッコイイ海軍の船を設計してもらえませんか、とかお願いしてみよーよぅ？」
「それもいいっすね～」
　なんて言いながら気になったのが自分たちの衣服である。白い海軍の軍服は白衣同様目立つ。故に、地味な書生風な変装をしてはどうか、と提案する陽太。蒼志はそれに賛成なようで「外套と帽子さえあればいいすかね？」と考えるのだった。

　一方、臨海市街と旧市街の狭間付近ではおいかけっこが展開されていた。サキリ・デイジーカッターはこそこそ隠れながら進んでいた五十嵐尚輝らしき人物を追いかけていた。
「くっ、しぶといな」
　お得意の空間移動を行いつつ追いかける。丁度人目に付きにくい場所を進んでいたからこそ使える業で、追われる身としてはやっかいな事この上ない。
（くそっ、早いな！！）
　尚輝……いや、変装していた鎌八まもるは内心で吐き捨て、傍らの猫……響タルトの様子を見た。愛らしい縞々の猫は必死に走っているようだった。
「そこまでですわ」
　不意に声がする。目の前に黒い衣服の女性と、包帯を巻いた女性、複数の黒服の男が待ち構えていた。帽子と胸元が開いたスーツ姿の女性が、【ファルコ窃盗団】の頭目……鷲尾礼美なのだろう、とまもるが認識していると、傍らの女性がメスを構えていた。
「……！」
「サキリ、ありがとう。さて、五十嵐博士。大人しくしてくだされば乱暴な真似はいたしませんわ。さぁ、こちらに」
　まもるは抵抗しない意志をみせるべく両手を挙げる。それに気を良くした礼美が手を動かし、黒服たちがまもるを拘束する。寄り添うようにタルトが歩み寄れば、礼美がそっと拾い上げた。
「まぁ、かわいらしいお連れがいるのね。うふふ、連れて行きましょ」
　そう言った傍からサキリと包帯の女性の目が動く。よく見れば袴姿の女学生が身を強張らせていた。三宅葉月はスケッチしている最中にうっかり目撃してしまったようだ。妙な場所へ出たが故に大通りを目指していた彼女は、表情を険しくする。どうやら、自分は事件そのものを見てしまったらしい、と。
（……これはもしかしなくてもピンチよね）
　そんな葉月の頬を掠めるメス。包帯の女性……添木牡丹こと『ファントムレディ』が放ったものだった。
「これは愛らしいねずみだこと」
「お嬢様、いかがなさいますかぁ？」
　牡丹が問いかけると、礼美は困ったように言う。
「サキリ、その子も連れてきて。ちょっとお仕置きが必要だから」
「かしこまりました、お嬢様」
　サキリは葉月の手を引き、鋭い目を向ける。並みの乙女ならば引き込まれそうな顔の彼は僅かに眼を細め、葉月にささやいた。
「妙なマネをしたらどうなるか、分かっているな？」
「こういう場合、悲鳴のひとつでもあげて気絶するのが人質としての作法にかなってるのかしら？」
　そんな事を呟く葉月に肩をすくめ、気絶させるとお姫様だっこをするサキリ。僅かなうめき声しか出せなかった葉月は人形のように抱えられ一行と共につれていかれるのだった。
「うふっ、それなりに利用価値がありそうねぇ？」
　礼美の言葉の意味を、最初サキリと牡丹は掴みかねていた。だが、それが分かった時彼らは俄然やる気をだすのだった。

　作戦会議がある程度進んだところで真央が再び買いだしに行く、と行って研究所を出る。それに合わせて由貴奈と巧も「ちょっと行ってくる」とばかりに外へ出た。記士郎も轟と共に店に戻り道具を取りに行く。
　真央が買出しに向かっていると、スーツ姿の若者――八神修がカフェーから出てきた。真央はキャスケットをかぶりなおすと「修ちゃんなのだ！」と猫のような笑顔で駆け寄る。
「ちょうどいいトコにいたな、真央。俺は五十嵐博士に会いたいんだがどこにいるか分かるかい？」
「運がいいのだ。尚輝ちゃん先生、研究所に戻ってるのだ」
　修は、真央の返答に表情を輝かせる。修は是非連れて行って欲しい、と頼めば真央は笑顔で頷いた。

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寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！

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