寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！｜リアクション

寝子島☆蒸気と帝都の浪漫譚！

結：そこから始まるエトセトラ

　中沢リッカルドの事務所では、リッカルドが資料を手に慌しく働いていた。そこへ駆け込んだ４人に目を丸くするものの、焔が事情を説明すればほっとした表情を浮かべた。
「そうか……。尚輝君たちと設計図を守ってくれたんですね！　よかった……、これで多くの人が助けられる！」
　有難う、と彼らに頭を下げるリッカルド。後から尚輝たちも姿を現し、事務所の人々も暖かく出迎える。
　広げられた飛行船の設計図に壬生由貴奈は目を輝かせる。ロマンの詰まった設計図は、彼女の心に響いたのか、夢中で眺めている。それは焔や真央にも言える事だった。
「ありがとう。五十嵐君も、みんなも、本当にありがとう！」
　リッカルドは嬉しそうにそういい、その笑顔に皆も嬉しくなるのであった。

　こうして、尚輝たちが守った飛行船の設計図は無事にリッカルドへと渡り飛行船が作られるようになった。そのニュースに寝子島は活気付き、経済効果もあったようだ。

＊　＊　＊　＊　＊

　それから、３日後……。

　――臨海市街・牛鍋屋
　無事、リッカルドに設計図を渡した為彼の行きつけの牛鍋屋で奢ってもらう事になった呉井陽太と須崎蒼志。２人は特等席で上質な牛肉を使った牛鍋を食べていた。
「さすがにいい肉なだけあって、絶品っすね」
「そうだねぇ。僕としてもお財布の危機から救われて嬉しいよ……」
　心からリッカルドに感謝しつつ食事をする２人。

　そう言いながらも陽太と蒼志は数時間前に上官から語られた言葉を思い出していた。

　――寝子島鎮守府

　海軍の兵士である陽太と蒼志、飛吹勘助、橘勇と陸軍の兵士でありもれいび特殊部隊【抱焔】の一員である御剣刀は提督室に呼ばれていた。だが、そこにいたのは提督ではなく、牛瀬巧である。
「今回は皆おつかれさんやったな」
「って、途中で姿くらましたじゃないですか……」
　つっこみに対し巧は楽しげに笑うと僅かに目を細める。そして彼はくすっ、と笑ってこう言った。
「君たちやから言うけど、ワシ、一応諜報員やからな。目立ちとうないねん」
「えっ？！　そ、そんな事……」
「御剣中尉同様もれいび部隊の一員でもあってな。そっちの頭と提督の命令でちぃと街の様子を探っとってん。せやから、目立つんは都合悪いし、あの場で出るわけにゃいかんかったんや」
　巧はそう言って慌てる若い兵士たちににぃ、と笑いかける。
「えらい様になっとったやんけ。ま、令嬢は取り逃がしてもうたけど、設計図自体は守れたしな。拠点潰しもそのうち行われるやろ？」
「そ、そうだといいんですが」
　不安げに勘助がいうが、巧はふと、真面目な顔で呟く。
「まぁ、陸軍の一部は今回の決定に納得せぇへんやろな。ったく頭の固い連中にはこまったもんや。なぁ、御剣中尉」
「本当だな、牛瀬大尉」
　同じ特殊部隊の刀は肩をすくめる。そして、巧は勘助と勇、蒼志と陽太に封筒を手渡す。そして、静かに告げられた内容に……４人は息を呑んだ。

　――陸軍：諜報部隊【十三夜】本部。

　鈴野海斗は傷を負いながらも帰還し、上官に報告した。飛行船の設計図を得られなかった事を上官に叱責されると思っていた彼は、意外な事に何も言われなかった。
「……何故に、ですか？」
「別の任務によって挽回してもらえばよい。今、この部署は人員不足でな。１度の失敗ごときで処罰しつづけてもいられないのだよ」
　と、新しい指令を早速手渡す。それを読んだ海斗は静かににやり、と笑った。
　五十嵐博士やその近辺に顔が割れているが故、完全に裏側での捜査が中心となるだろう海斗。だが、その目には憂いなど無く、新たなる使命が彼の心を燃え上がらせる。彼が受け取った指令にはちらり、とこのような事が書かれていた。

　【かもめを出し抜け】

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