フラッシュ・モブやろうぜ！｜リアクション

フラッシュ・モブやろうぜ！

　とある家の中。
　パソコンとにらめっこしながら何かをしていた青年が、ちらりと時計を見遣る。
「……そろそろ行ってみるか」

　日曜朝８時。休日のせいかシーサイド駅の人はまばらである。
　おむすびを食べながら駅の掲示板を見ていた御剣刀はふうと息をついた。
「良かった。時間、そこまでかぶってないな」
　刀が調べていたのは今日、シーサイド駅付近で催しがあるかどうかだ。
（昼に駅の傍でバーゲンがあるから、バーゲン目当ての客、バーゲン終わりの客を上手く引きこみたいな）
　そんなことを考えていると、遠くから見慣れた学校ジャージの後木真央が現れた。
「おはようなのだ！　もしかして刀ちゃんもモブ参加なのだ？」
「その略し方はどうかと思うけどな」
「サンマさんの中の人になれるなんて夢みたいなのだっ！　これでサンマ星人の仲間入りなのだっ」
「サンマ星人……？」
　朝からハイテンションの真央に気押されながら、刀は真央の重装備っぷりに目を向ける。
「しかしすごい荷物だな。何持ってきたんだ？」
「えっと飲み物なのだ、それからお菓子と着替えとタオルとカメラと……あ、これ刀ちゃんにもあげるのだ♪」
　そう云って真央がリュックの中から取り出したのは大量の水褌、そして手書きの水褌締め方図解だ。
「お饅頭と一緒に配る予定なのだ、だからどうぞなのだ！　ところで刀ちゃんいつからここにいるのだ？」
「あ、ああ。３０分くらい前からだな。剣道の練習もあったからそのまま来たんだ」
　褌を握りしめたままふたりが話しているところを、通行人が通り過ぎてゆく。
　その時聞こえた「チャリン」という金属音に、刀と真央は顔を見合わせる。
「今何か聞こえたのだ」
「ああ。鍵が落ちてる」
　足元に落ちていた鍵を刀が拾った時には、その通行人はもう消えてしまっていた。
「その鍵、もしかしてロッカーの鍵なのだ！？」
「そうとしか思えないな」
「じゃあ今の人サンマさんの中身だったりするのだ！？」
「中身って……まあ間違いではないけど」
　きつねにつままれたかのように、ふたりは通行人の消えた道を見つめていた。

「おじさん早く！　遅れちゃうよぉ！」
「遅れるって、集合時間まではまだ余裕だろ」
　甥っ子の曖浜瑠樹に急かされ、曖浜鴻は渋々歩くペースを上げる。瑠樹はよほどサンマさんに会うのが楽しみなようだ。
（だからって、あんなん怪しすぎるだろ。弟もどうして自宅のパソやメール、小学生もつつけるようにしてたんだ……）
　そう、今回瑠樹は独断で家族共用のパソコンからメールを送ったのだった。
「オレひとりじゃ怒られちゃう、大人と一緒にって約束だったんだからー」
「分かった分かった、すぐ行く」　
　瑠樹に引っ張られるようにしてシーサイドへ向かう鴻。
　すると、隣からひょいとポニーテールの少女が顔を出した。
「もしかして、フラッシュ・モブ？」
「そうだよぉー」
　瑠樹はにこにこと鴻を指差した。
「おじさんと一緒に行くんだ」
「そうなんだ。実はあたしもなんだ。篠原翠響って云うの。今日は１日よろしくね」
　話し始めた瑠樹と翠響の足取りは自然とゆっくりになる。
　格段に落ちたペースに鴻は顔をしかめる。
「君、名前は？　どんなことするか決めた？」
「オレは曖浜瑠樹だよぉ。とりあえずみんなと話し合えばいいかなあって思ってるけど。あ、そうそう。こっちはおじさんのー」
「曖浜鴻だ。ほらお前ら、口と同じく足も動かすんだ。じゃないと間に合わなくなるぞ」
　ふたりははあいと間延びした返事をし、もう一度早足を始めた。

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