フラッシュ・モブやろうぜ！｜リアクション

フラッシュ・モブやろうぜ！

「それは、私も頂いてよろしいの？」
「勿論なのだどうぞなのだ！」
　目を輝かせた真央は、すぐさま褌と図解のセットを弓弦に渡した。受け取った弓弦は満足げだ。
「ねえ、それ嬉しいの？」
　聞きにくそうに訊ねた翠響だが、弓弦はお世辞などではない証拠に、にっこりと笑ってみせた。
「はい、個性的で素敵だと思いますよ？　自分の得意分野を生かすことも大事だと思いますし。あなたも頂いたら？」
「いやあ、あたしは遠慮しとく」
　ポニーテールを横に振って丁重に断った翠響は、褌とは別の部分で弓弦の言葉がひっかかった。
（自分の得意分野かあ……あんまりちゃんと案練って来なかったけど、新体操でパフォーマンスとかいいかも）
　翠響がプランを考えている横で、瑠樹がはいはーいと手を上げる。
「オレ饅頭食べる役やりたいなぁ。それで、美味しくって踊っちゃうんだー」
　ふりふり、と身体を動かす瑠樹を見て、鴻も頷いた。
「なら俺も瑠樹と一緒にリアクションをとるぜ。正直、歌も楽器演奏もできねぇからな。だが、ダンスや体動かすのなら何とかなるりそうだ。筋トレやランニングの成果を見せてやる！」
　景気づけにムキっと力こぶを出した鴻は、もう片方の腕で瑠樹を抱き上げた。瑠樹は楽しそうにそのまま肩へよじ登り、肩車をしてもらう。翠響も決意を固め、ふたりに便乗して手を上げた。
「あたしも試食役に回ろうかな。新体操が得意だから、パフォーマンスしながら踊るわ。この広さならちょっとした演技もできそうだしね」
「おうおう、盛り上がってきたじゃねえか！」
　正敏は心底楽しそうに弦を弾いた。
「なら俺も試食役だな。饅頭食べたらあまりの美味さについつい歌いだしちまうって感じか？」
　徐々に固まる意見に、まだあやめはおどおどしている。
「しかし……本当にそれで……」
「皆さんも賛同していますし、構わないと思います」
　弓弦はあやめのフォローをしつつ、小首をかしげた。
「私はどうしましょう。踊る人が多いですし、お饅頭を配る方に回りましょうか。お饅頭がはけたら踊りに移行します」
「真央ちゃんも勿論配布役なのだ！　褌を普及させる野望もあるし大変なのだ！」
　あやめは乗り気な皆の姿をみてやっと安心したようだった。
「それじゃあ私も……試食を配る側に……サンマさんになりきれるか……分かりませんが……」
「人数的に、俺もこっちかな。そうすれば丁度半々だし」
　刀も配布役に手を上げ、なんとか話はまとまったようだ。
「よっしゃ、楽しくなりそうだなあ！」
「だなぁー！」
　正敏の景気のいい声に、瑠樹も合わせてはしゃぐ。
　鴻は頭の上で騒ぐ瑠樹を落とさないよう注意しながら、刀に向きあった。
「全員の役割があらかた決まったな。でももうちょっと詰めたほうがよくないか？」
「俺もそう思ってました。それで、自己紹介の時浅葱さんが劇団に所属していると云っていたので、ダンスの振りやタイミング、もしやるなら寸劇なんかの段取りも教えてもらおうと思って」
「わ、私ですか……？」
　自分の名前が出たことに驚きつつ、あやめはこっくりと頷いた。
「……お、お手伝いできるなら」
　その成り行きを見ていた女子3人組も近くに寄ってくる。
「作戦会議ってやつですね。わくわくします」
「今度は何なのだ水褌のアピールポイントを探してるのだ？」
「それは流石にないと思う……。でも確かに、ネットでよく見るやつみたいに、ビシッとそろったダンスとか良いかも知れないわね」
「オレでも踊れる簡単なダンスにしてねぇ？」
　心配そうな瑠樹の呟きに、あやめは真剣に頷いた。
「最善を……尽くします……」
　あやめを中心に小さな輪になった８人は、更にあれやこれやと作戦を練り始めた。

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