フラッシュ・モブやろうぜ！｜リアクション

フラッシュ・モブやろうぜ！

　８時５５分。

　少しずつ人も増え始めた駅に、フラッシュ・モブの顔ぶれは集まりつつあった。
　それぞれ簡単な自己紹介も済み、集合時間も来たところで、広村正敏が口を開く。
「それじゃあ、そのロッカーの鍵？　開けてみようぜ！」
「そうなのだ、時間もぴったりなのだ」
　一同、指定されたロッカーの前に行き、代表して刀が鍵を開いた。
「まあ、メールに書いてあった通りですね！」
　桜庭弓弦の云った通り、ロッカーの中には試食用の寝子饅頭が入ったクーラーボックス、そしてサンマさんのかぶりものが10人分入っていた。サンマさんの顔の下部分が丸くくり抜かれており、いわゆる「中の人」の顔がきちんと見えるようになっている。
　その奥に隠れてもうひとつ、クーラーボックスとは違う大型の荷物があった。
「あら、これはなんでしょう。メールには書かれていなかった筈」
「ああ、それは俺がサンマさんに頼んだ代物だ」
　弓弦の問いに答えたのは刀だ。
「やっぱり饅頭と云えばお茶。試供品と一緒に配ればいいと思って」
「すごくいいアイデアだと思います」
　お茶セットに和気あいあいとしている横では、鴻が唖然としてロッカーの中を凝視している。
「絶対イタズラだと思ってたのに……あのメール本物だったのかよ」
　一方、浅葱あやめはいち早くサンマさんの個数の違和に気づいていた。
「……おかしい……ここにいるのは8人なのに」
「ってことは、遅れてる奴がいるのかもな」
　正敏の呟きに、瑠樹が頬を膨らます。
「遅刻はダメってメールに書いてあったのに！」
「でも、いない人を待ってる訳にもいかないわよ。時間だって限られてるし」
　翠響が腕組みをして唸ると、確かに、とあやめが相槌を打った。
「……実は……少し考えてきたんですが……今回は寝子饅頭のPRが主目的とのことなので……フラッシュ・モブ特有の音楽・ダンスのゲリラライブにせよ、寸劇をするにせよ、『試供品を配る役の人から饅頭を受け取り、食べてからの変化でアピールする』のが、いいのではないかと……思います」
「俺も考えてきたぜ！」
　あやめの言葉尻にかぶせるように叫んだ正敏は、自前のギターを爪弾き、これまた自前のアンプを指差した。
「今回はアドリブで歌って参加しようかなって思ってたんだ。適当に合わせてくれたら嬉しいぜ！」
「あ、じゃああの、広村さんの歌が主体で……」
　おどおどと正敏に合わせようとするあやめに、刀は首を振った。
「いや、せっかくなのでどっちも取り入れませんか。この際だからみんなの意見も取り入れて、良いところをミックスする感じで」
「はいはい！　真央ちゃんは寝子島饅頭を配りながら同時に水褌までも普及させてしまうつもりなのだ！　みんなにもあとでちゃんとあげるから安心してほしいのだ！」
「後木はもう、すきにやってくれ……」
　リュックいっぱいに詰めた褌をみせドヤ顔を決める真央に溜息をつく刀。
　だが、この手の話題に食いつきそうには見えない弓弦が、興味深そうに褌を見つめていた。

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