進路相談、君等の道２【普通科編】｜リアクション

進路相談、君等の道２【普通科編】

●普通科１年１組その３

【屋敷野梢の場合】

「大学進学を希望します」
　と、梢ははっきり言った。
　第一希望は、京都大学薬学部。第二希望は国立大の医学部だ。
「屋敷野さんは、薬剤師かお医者さんを目指すのですか？」
　島岡先生の質問に、梢はいいえ、と首を振る。
「私には治したい病気があるんです。ですからその治療法の研究をしたいなと思っています」
「難しい病気ですか？」
　梢は「ん……」と頷く。
　梢には大切な人が居た。
　梢を救ってくれた人だった。
　病を治すと約束した。約束は――間に合わなかった。
　思い出すとまだ胸が痛む。
　――きっと一生痛むのだろう。
　けれど、だからこそ。
　忘れない。
　挑まなければならないと思う。
　果たせなかったいくつもの約束を、ひとつだけでも果たしたいと思うから。
「かなり大変な進路であろうことは分かってます。それでもやるだけのことはやってみたいなーって」
　予備校の模試も受けてみた。現時点だと、苦手科目の英語をきちんと克服すれば十分目指せるだろうという結果も出た。そのことを話すと島岡先生も納得したようにうなずいて、
「そうですね。英語でしたら任せてください。一緒に勉強しましょう」
　と微笑んでくれた。

「医学で目指すべきか、薬学で目指すべきか……という所を、少し考えています。ですので、両方目指すと言うのは変ですが、３年生までに決めるとして、今はどちらを受験しても大丈夫なようにしておきたいなーと思ってます」
「それがいいと思います。屋敷野さんは生物は全国トップレベルですし他の理系科目も優秀です。今まで通り理系科目に力を入れて、他科目も落とさないように出来ればベストですね。骨は折れると思いますが屋敷野さんならやれると思いますし、やる価値があると思います。頑張ってくださいね」
　島岡先生はにっこり笑って、他に悩みはありますか、と聞いた。

「……えと、他の悩みは……私が京都に行ったとして、今寝子島で一緒に住んでいるおじいちゃんとあまり会えなくなるのが心配というか」
「あら、おじいちゃん子なんですか？」
「いやー今おじいちゃんちに住んでるものでー」
　梢は悪戯っぽく瞳を輝かせる。
「私が寂しいわけじゃないですよー？　おじいちゃんが私がいないと寂しいじゃないですかー？」
　島岡先生はそれを聞いてくすくす笑う。
「たまに寝子島に顔を見に戻っていらっしゃいな。春も夏も秋も冬も、ここはいいところなんですから」
「そうですね。そしてたまにはおじいちゃんも私のところに招待したりしましょうかねー」
「それがいいですよ」
　島岡先生の穏やかな笑顔を見ながら梢は改めて覚悟を決める。

　私はやります。
　頑張るから、見ていてくださいね。