ねこでんのある風景｜リアクション

ねこでんのある風景

＝＝放課後　寝子島駅～星ヶ丘駅＝＝

　御剣刀は、いつものように改札を潜り電車に乗って座席に着きました。
　扉の閉まる注意と音楽、走り始める電車を意識しながらボーッと外を眺めます。
（普段から利用しているねこでんだけど、目的地へ向かうための移動手段だったから乗ること自体を楽しむって言うのはなかったんだよな）
　そんな気持ちが変わったのは、寝子電のラッピングコンテストがきっかけでした。
　絵に自信はないけれど、寝子島を宣伝したら街も活性化するだろう、という思いから参加した刀ですが、見事オールインワン賞を受賞したのです。
　そのラッピングコンテストの作品が電車を飾り実際に走っていると聞いて、刀はねこでんに乗ったのです。
（俺のも出ているかな？）
　ちなみに刀の乗った電車は真央のデザインしたものでした。

　一定のリズムを刻みながら電車が走ります。
　それに合わせて移り変わる町や海の景色。
（こうやって全部を通して眺めたことはなかったけど、これはこれで楽しいな）
　当たり前のようにそこにあって、当たり前のように利用している電車ですが。
（電車の到着や出発が遅れたら慌てて、電車の時間に間に合わなければ「ヤバい、間に合わない！？」と焦る。それは電車がその時間に来るんだと当たり前に思っているから、その信頼に電車が応え続けてくれているからだ、凄いよな）
　改めて感謝の念を抱く刀でした。

「お、あれは？」
　シーサイドタウン駅に近づくと、先にラッピング電車が止まっているのが見えました。
　デザインを確認しようと見つめた刀は、視界に金色に輝く小さなものを捕らえました。
「鳥？」
　何やら黒っぽいものをつけていた気がします。
　そのままホームのほうに目を落とせば。
「あれ、後木じゃないか」
　カメラを構えた後木真央が手を振っていました。
　クラスメイトの桜井ラッセルもいます。
「新聞部の取材かな？　おーい」　
　手を振り返しましたが、ガラス越しで声は聞こえず。
　慌てたように真央とラッセルは電車に駆け込んでいき、電車は動き出します。
「話す時間があると良かったが、会えただけでもすごいよな」

　夕陽の中、電車は星ヶ丘駅に着きました。
　ホームに降りた刀はお茶と駅弁を買って、椅子に座りました。
　駅弁を食べながら、色々なラッピング電車が利用される様を眺めて楽しんでいると。
　見覚えのある大きなサンマさんの絵が飛び込んできました。
「あれ、俺のデザインだ」
　ちょっとこそばゆい思いになる刀でした。