秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　空が急激に曇ってくる。
　どす黒い雲が渦を巻き、海が灰褐色に変わっていく。

　状況を確認しよう。
　一団の場所は寝子島北。
　先頭集団は木天蓼湾に突入している。彼方には本土の海岸線が遠望される。
　後続組はそこまで進んでいないが、ほぼ同位置である。かろうじて木天蓼湾に差し掛かるあたり。
　だが、両者の距離はそれなりに開いている。

　海の彼方が、虹色にきらめいた。
　霞むおぼろげな光の中に、おぞましい背鰭が屹立している。

「真珠ザメ……」修が呟く。頬を雨滴が叩く。
　春に近海に現れた特殊な鮫。
　高い知性と、硬質化した皮膚を持つ、凶暴で危険な魚類である。
　最近、再び姿を見られるようになった。注意されたし。とのことだったのだが……。。
　彼は豪と共同し、今年春に真珠ザメを仕留めている。
　臆する相手ではない。だが……。
「数が、尋常じゃないな……」
　
　円も、天候の異変を察知する。
　波に向けて正対するように、微妙に舵を補正する。
　頬に、雨が跳ねるのを感じる。さらに荒れることも考え、４５度でも受けられるようにスタンバイ。
　船舶操術の基本。該博な知識をもつ、円ならではの堅実な操縦。
　グラグラする船と、円の緊張を感じ、ぐっとおねーさんの腕にしがみつくみゃーくん。

　海面に、いくつもの虹色の背が浮かび始める。
　二つ、三つ。すでに二十はあるか。大小様々の背鰭が。ボートと並走し、威圧している。

「ふーん……」さすがの豪も、背筋に汗を感じる。
　ただ数が多いだけではない。
　妙に統制立っている。「群れ」として、有力な存在がいる。

　異変に気付いた一同が、しんと静まり返る。
　鮫に、付け狙われている。
　標的は……力弱い女子の一群。碧南、瑠奈、そして……レディ。

　先遣部隊と思しき何匹かの鮫が、ゆっくりとボートの周りを旋回し始める。
　一同を威圧し、おびえさせる挙動。明らかに知性あるものの動きだ。

「ひっ……」レディは船端に身をひそめる。
「一時休戦ね！」ボートを寄せ合い、レディを庇うようにする碧南と瑠奈。
　その周囲に張り巡らされる、触手の壁。
「カワイイ女の子は私のだ！」駆動した本能を闘争本能に変え、女の子を守る構えの未沙。
　首尾よく救出したら、アンナコトやコンナコトもしちゃおう。
　そう考えると、全身に力がみなぎってくる。