秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　動力を失った未沙の船。
　仕方なく未沙は飛び込み、バタ足をしながら船を押し始めた。

　星ヶ丘マリーナの、海側に張り出したテラスからも、観客がこちらを見ている。
　此処から先は人気のない、南海の孤島じみた風景が続く。
　
　バタ足をしつつ、未沙は先ほどの走りを思い出していた。
　女の子一杯の、最後尾も楽しいが、やはりあのスピードはたまらない。
「それにしても気持ちよかったなー」ほわんほわんと未沙は夢想する。「思い出すだけでも、興奮しちゃう……」

「あっ」

　不意に、未沙の足が止まった。
　静寂が訪れる。
「未沙ちゃん、どうしたの……」不安になったレディーが、声をかけようとしたその瞬間……。
「わっ！」
　奇怪な触手が、海面を突き破って出現した！

　未沙のろっこん『あなたの後ろに這い寄る触手』！
　両手両足が、それぞれ触手化する！

　未沙の船には名前がない。
　あるいはそれは「名状しがたきもの」のことだったか。

「きゃーっ！」
「わーっ！」
　未沙の触手に驚愕する女の子たち。
　スイッチが、オンである。
　暴走モードに突入した未沙に、人の言葉は通じない。
　女の子にアンナコトやコンナコトをしたいという本能が、触手を突き動かすのだ！

　艶かしく蠢く触手が、女の子の首筋に、足先に触れる。
　まさに、南海の異形！
　そうこうしている間にも触手はみるみる増える。
　あわや、女の子たちの運命は……。

　――その時。
　彼方から、生臭い風が吹き始めた。