秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　そして……海からだけでなく、空からも。

「あ……」天に顔を向けるレディ。
　マスクを、鋭い翼の影がゆっくりとよぎっていく。
　不吉な、重々しい啼き声。

　――信天翁。アホウドリ、アルバトロス。
　鳥類の中でもとりわけ巨体を誇る、肉食性の怪鳥。
　相伴にあずかろうとでも考えたか、ゆっくり上空を旋回している。
　輪を描く凶鳥の群れ。翼の影は扇風機のように、不吉に一同に覆いかぶさる。

　なんとか、レディたちに近づきたい、先頭集団。
　だが……。
　あまりにも距離が離れすぎている。
　光の失せた世界の中ではっきりわからない。その間にも、真珠ザメの群れがぎっしり陣を張っている。
　
　不気味に高まる緊張。
　いつ、破裂してもおかしくない。

「……褌を、使うのだ」
「……穿くの？」
「自分より長いと食べないっていうのだ！」
　言うが早いか、真央は純白の水褌を海面に抛る！
　鈍色の海面に、白い絹布は光条のごとく波を貫く！

　効果は劇的だった。
　威圧的に組まれていた陣形が、一挙に崩壊する！

　緊褌一番！
　見上げたもんだよ屋根屋の褌！

「効くと良いなぁな、唐辛子爆弾なのだ！」
　唐辛子の弾丸が、鮫の中心部に炸裂する。
　この世のものとは思えぬうめき声をあげ、鮫がもだえ苦しむ。
　未沙の触手が、戦闘力を奪われた鮫を薙ぎ払う。

　よし！
　豪は快哉を上げた。
　探検部は常に万全の態勢にあるのではない。窮地に陥った時、如何に手近なもので窮地を脱するかが、真価を決める。
　真央の作戦は、まさに探検部の精鋭としてふさわしいものだった。
　サポートするべく、豪は海面に縞模様のバスタオルを投げ込む。
　鮫は本能的に縞模様を嫌う。知識は実践できねば意味がない。

　大量の鮫を挑発し、誘導する。
　無言のうちに、作戦が共有される。

　最初に動いたのは修。取り出したのは食糧。そしてラジオ。
　ビニールに包んだまま、ノイズを最大ボリュームまで解放し、彼方に放り投げる。
　鮫の群れが崩れた。
　真珠ザメの中には、音に反応するものも存在する。
　まっしぐらに突進した鮫。ラジオを飲み込んでも、腹部からノイズは響くのか、鮫同士のすさまじいデッドチェイスが繰り広げられる。
　的確に食料を撒き散らし、修は鮫を誘導する。
　冷静沈着な修。

　鮫の群れに、割って入るは刀。
　手持ちの菓子をばらまき、素早く誘導。
　刀の速度に追いつけぬ鮫は、激突しあう。刀は苦戦する修のサポートに入る。

　しかし、何としても数が多い……。