秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　野々ののこと、私達が、かわした約束。

「――よしっ」
　くっきり磨き上げられたプラグを見て、朝野未沙はニッコリ笑った。
　ボートを収めたハンガーは昼でも暗い。天窓から差し込む陽光が、鍍金されたプラグの先端をきらりと光らせる。

　寝子島観光主催のボートレース。
　リニューアルのため廃棄になってしまうボートを使って、せっかくだからレースをしちゃおうというお気楽な企画だ。
　ボートはレース後捨てちゃうので、どう改造してもよし！

　未沙はぱっと参加を表明した。
　ボートを弄繰り回せる機会、滅多にない。
「好きに弄って良いんだよね？　どう改造しようかなー！」

　カワイイ女の子好き、這い寄るガールズハンターとして知られる彼女。
　しかし、実はひそかに『機械弄り』というヘヴィーな趣味も持っていた。
　ハンガーにはせ参じた彼女。
　お気に入りの工具箱を手に、ウキウキとボートを確認し始める。

　定期的なメンテナンスはなされている。
が、充分な整備とはいいがたい。
　時間をかけてじっくり確認し、正確に歪みを測定、外せる物から部品を外していく。

「ゴミを取り除くだけでも、全然調子が変わるからね……」

　埃や酸化したオイルを拭い取っていく。クラックはパテで補正。あまりにひずみのひどいものは、思い切って部品ごと取り替えちゃう。決まった力でビスを止め、緻密に油を差していく。
　経年劣化したガンネルは補強。防水加工のラッカーを吹き付ける。

　古びたボートがみるみる息を吹き返し、海の女王としての勇姿を取り戻していく。
　優美な曲線、たっぷりしたボディー。中世絵画の妖精のようだ　繊細でこまやか、愛情あふれる、未沙にしかできぬメンテナンスで、船がよみがえっていく。

　電気系統は問題なし。時間があればちょっとこっちもいじくって、チューンナップを仕掛けるのもいい。

「うー、ワクワクし過ぎて興奮しちゃう……」

　フェティシズム全開で恍惚と作業に没頭する未沙。
　彼女の影から『にょき』っと何かが現れた。

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