秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　その時！
　巨大な砲弾のごとく、鮫の大隊に突っ込む一艘の船があった！

　クルーは蛇那伊。
　彼に常識は通用しない。
　ズババババッッ！！！
　螺旋を描くオールが、鮫をかたはしから蹴散らしていく。

「ぬぅっ……。あれこそまさに『王覇亜殴流（オーバーオール）……』」呟く円。
「知っているのか、円！」」

「王覇亜殴流（オーバーオール）！
　あらゆる道具、あらゆる棒状のものを武器とする、中国拳法……。
　その中でも海上での戦いに特化した、櫂を武器とする棒術の異端『猛汰拳』。

　猛汰暴徒を開祖とするこの拳法で、究極の奥義とされるのがこの『王覇亜殴流』である。

　その存在は長らく疑問視されていたが、阿片戦争時エゲレス海軍にわずか数名で立ち向かい、最新鋭の艦隊を撃沈せしめた戦闘部隊が、この『王覇亜殴流』の使い手であったという説は、いまや学会で支配的である……！
（寝子島書房刊『よくわかる中国棒術』」）

　徹底的に機動力を生かし、鮫をかく乱する円。
　万一誰かが振り落された時のため、ロープの準備を整える。

　一瞬を突いて飛び出したのはマッハＧＯ。
　豪はろっこんを解放。全身に気を集中させる。
　女子のピンチは見捨てておけぬ。
　
　菓子、褌、タオルなどを縦横無尽に駆使し、鮫の群れを誘導する。
　あまり沖に出るのは危険。海岸寄り、それも浅瀬や岩場の多いところ。

　群がってくる鮫。
　豪はひるまない。一度倒した相手。多少パワーアップしているなら、なお自分の力を測定する物差しになる。
　いかなる巨体と言えど、今まで待ち受ける冒険、これから待ち受ける冒険、そして仲間の重みに比べたら、全く……。

「『軽いぜ』っ！」

　豪を中心に、竜巻が巻き起こる。
　すさまじい勢いで、あたりかまわず鮫を放り投げる豪。
　大小無数の鮫が、天高く舞ったと思うと、一気に落下する。
　あるいは地面に、あるいは水面に叩きつけられる。
　鮫嵐、とでも言おうか。

　すさまじい光景が、海上に現出する。

　傍らで釣り糸を垂らし続ける猯利。マイペースながらに、彼の釣り糸は確実に鮫をヒットする。
　地味ながらじわじわと、鮫の壁が蚕食されていく。