秋風ボートレース！｜リアクション

秋風ボートレース！

　秋の気配も濃いのに、浜辺は人ごみでごったがえしていた。

　そこにさっそうと現れるのは後木真央。
　上下寝子高のジャージ姿で、胸を張って堂々と歩く。
　フランスのトップモデルの様な、毅然としたいでたちだ。
　その場の視線が一斉に集中したところで、真央は胸のファスナーに指を掻け、一気に引き下げた。

　ばっ！　宙を舞う寝子高ジャージ。
　蛹から蝶になるように、真央は一瞬にして変身する。

　まばゆいばかりに輝くその姿は、褌アンドさらし。

　腰に手を遣り、真央は自信に満ち溢れた表情で周囲を見渡す。

　ボートレースと聞いた真央は、胸をときめかせた。
（公然と水褌を広める機会が来たのだコレ～！！）
　今年の夏、真央はあちこちで褌を締め続けた。
　それはそれは見事な「漢！」っぷりを、各所で見せつけてきたのだった。

　爽やかで清々しい白。
　キリリ締めれば、心も引き締まる。
　かっこよさの数字が、もし表示されるなら、百や二百では足りないところだ。

　こんなに素敵な褌なのだが、世間の目は冷たかった。

　そこで彼女は今回、褌にて単身推参、褌の普及に努めることにしたのだ。

（ふぉぉぉ、滾る漲る！）
　午後の黄味がかった日差しを浴び、水褌姿の真央は砂浜のベストフンドシストであり、魅惑の果実であり、キウイパパイアマンゴーであったのだ。
　びしっと、振り向きヌードのポーズで決める。
「魅惑の白で、観客の視線を釘付けなのだ！　――エントリー『褌普及委員会』参上なのだ！」

　桟橋に係留されている修のボート、そして最後の仕上げをしている修を見て、真央の心は燃える。
「修ちゃんが頭脳で勝負なら、真央は肉体で勝負なのだ！」

　翻る幟。『褌普及委員会参上』。
　あっけにとられた観客に「どうぞなのだー」と、水褌＆褌の締め方セットを配布していく。ホームページにアクセスすれば、褌の締め方が動画で解説される。

　そんな彼女を遠目で見つつ、苦笑するのは龍目豪。
　流石、探検部部員。抜群の行動力は、いかなる場所でも発揮される。
　探検部部長として名を馳せる豪。海洋部にも参加している彼のレース参加は、ボート練習の意味もあった。
　勝利ももちろん大事だが、それよりも安全で楽しいレースをするのが第一目標だ。
　レインコート、救命胴衣をしっかり積んだ『マッハＧＯ』号の舳先が、秋の光に輝いている。
　準備は綿密。ボーイスカウト仕込みで、普段から研鑽を欠かさぬ豪の知識のたまものだ。
　何だかワクワクさせる。未知の冒険に繰り出すときのような気分だ。
　思いもよらぬ成果が、こういう時に手に入るのだ。

　わあっと歓声がおこる。
　掲示板に、エントリー者の名前が張り出された。
　当日参加者なども含めた、完全版だ。