怪人セブンの復讐｜リアクション

怪人セブンの復讐

　菜々緒の痛ましい姿を目にした北原みゆきは思わず背筋が凍てつくような恐怖を覚えた。
（あの青痣ってまさか味方の黒服がつけたの！？　叢雲は味方さえ傷付けることに躊躇いがないの？）
　菜々緒は４月から７月の“地獄の３ヶ月”の間、叢雲教団の支援を受けていたことは、前回の『歌劇』事件で判明している。
　いわば、菜々緒（怪人セブン）と教団は共犯関係にあるはずだ。
　だが、泉月花は黒服に指示して菜々緒を気絶させて連行してきた。
　北原は未だ目を覚まさない菜々緒を心配しながら、泉月花の教団への姿勢に不満を募らせる。
（暴力で従えさせるなんて絶対に間違ってる。そんなのただの独裁だよ……）
　だが、教団のこうした封建的体制は、頂点に君臨する支配者にとっては非常に有用な体系である。
（だからきっと、あの痣だらけの男の人も文句が言えないのかな？）
　ろっこん無効化のろっこんを持つ痣だらけの男の顔を見遣る北原。
　目元は腫れ上がり、口の端は切れて血が滲んでいる。
　北原は手を挙げて泉月花に告げる。
「私も撲滅隊へ行くよ。その前に……、その人の傷の手当てをさせてほしいの」
　北原の申し出に、一瞬、泉月花は目を細めて耳を疑った。
「傷の手当て？　敵に媚売って取り入ろうとしても無駄ですよ？」
「それは違うよ！」
　北原は我慢できなかった。
「そんなに酷い怪我していたら傷の手当てをしてあげたいって思うのはフツウじゃないの？」
　泉月花が傷だらけの男に対して、余りにも関心が無さ過ぎることに不快感を言葉にして出す。
　北原は鉄格子越しに泉月花へ詰め寄った。
「怪我人なんだよ？　治療したっていいじゃない」
「くだらないですね」
　しかし、泉月花は北原の申し出を一蹴した。
「例え手当てを施したとしても、この人の生傷は絶えることはありません。彼がもれいびである限り、それは未来永劫続くのですから」
「それってつまり……」
　北原は泉月花の言わんとしていることを察した。
　北原だけではなく、牢の中への人質たちも理解した。
　ろっこん無効化の男の条件は、きっと誰かに殴られることが関係しているのだ、と。
「ねぇ、あなたはそれでいいの？」
　北原が無効化ろっこんの男に声を投げかける。
「これじゃ、道具のように扱われてるだけじゃない！　本当は嫌なんじゃないですか？」
　男は押し黙ったまま、北原の顔を睨み付けるだけだった。
「あの、ちょうど薬局で傷薬を買って帰るところだったの。せめて、これで口元の切り傷を……」
　左手にぶら下げていたビニール袋から、軟膏を取り出して鉄格子の隙間から手渡そうと右腕を伸ばした。
　その時、泉月花が黒服の持っていたスタンロッドを奪い取ると、そのまま北原の腕を打ち付けた！
　電流の痺れで大きの体を仰け反らせた北原は、その場でうずくまって動かなくなってしまう。
「やれやれですね、余計な真似はしないでくださいね。では、おとなしく牢の外へ出てもらいましょうか？　……連れて行きなさい」
　黒服たちが足腰の立たない北原の両方を掴むと、ヘッドフォンと目隠しをした上で強引へ外へ連れて行ってしまった。
　……牢の外へ転がった傷薬は、痣の男が拾い上げていた。
「真央……ちゃん、修く……ん、み、んな……無、事でい、て……」
　力を振り絞り、北原は人質たちへメッセージを残す。
　残りの者たちも、そろそろ腹を決めなければならないだろう。