怪人セブンの復讐｜リアクション

怪人セブンの復讐

　連絡を受けた【情報班】２人は面食らっていた。
　特に黒依は卒倒しそうになり、思わずお守りのラビットフットを握り締めた。
「……やっぱり、誰も傷付かずに終えることは、できなかったのね」
　肩を震わせ、その深く青い瞳から涙をこぼした。
「それで、どうするの？　現場は私たち２人の判断を仰ぎたいって言ってるんでしょう？」
　神野の表情も暗い。
　黒依は俯いたままだ。
「きっとみんな、感情的になって収拾が付かなくなっているのね。だから外からの意見を頼らざるを得ない……」
　黒依の言葉に、神野は眉間にシワを寄せながらメガネのブリッジを押し上げた。
（現場で正確な判断が取れないほど、みんな混乱している……、非常に危険だわ……）
　神野はふと、こんな行動を起こすテロリストや過激派組織について考えを馳せる。
（彼らがここまでしてでも実現させたい願いって、科学者が追い求める仮説の実証に通じるものがあるのかしら？）
　世の科学者は、まさにこの世の摂理を読み取っていくのが使命だ。
　時には神へ喧嘩を売るような領域に足を踏み入れ、その原理を暴いていったことは歴史が証明している。
　理系女子の神野にとって、これらの動機や行動理由の類似性は、非常に興味深く感じられた。
（とはいえ、私の目的は、破壊ではないわ）
　今は救出が目的。
　犠牲は出た。
　だが、まだ明確な死亡報告はされていない。
　確率はゼロではないのだ。
「黒依さん、私は骨削くんを助けるべきだと思うわ」
　黒依の判断を急かす神野。
「今なら、まだ彼の命を救えるかも知れないわ」
「……そうね、例え、裏切ったとしても、私たちは全員で帰るって決めたもの」
　黒依はスマホに届いたメールに、こう返信した。
『当初の予定では、私たちは３Ｆ制圧後に拠点をそこへ移動させる手筈でした。ですが、この緊急時に予定外の行動で人手を割く訳にはいきません。ですので、私たちが直に骨削さんの捜索と治療に向かいます。皆さんは引き続き、作戦通り上の階へ進んで下さい』
　黒依の文面を神野に見せる。
　神野は無言で大きく縦に頷いた。
　こんな非日常、好奇心を持たなければ巻き込まれることはなかっただろうか？
　神野はこの極限状態の中、今もフツウの生活を送っている自分を想像した。
（いいえ。人は皆、思っているほど安全なところにいるわけじゃないのよ。気づいていないか、気づかないふりをしているだけよ）
　神が落ち、神魂が拡散し、毎日が様変わりした寝子。
　それでも平和やフツウは、いつまでも続くと思っていた。
　……しかし、それは実際、こうして人知れずフツウを死守するために戦う『名も無き英雄たち』が存在する事実を神野は思い知らされた。
「黒依さん、仮説の実証に一番大切なことを教えてあげるわ。それは諦めないことよ。意志と時間さえあれば、何事も不可能なことはないわ」
「……ええ、その通りだわ」
　黒依は荷物をまとめ終わると、黒服たちに入口で待ってもらうように告げた。
「行きましょう、神野さん。この戦い、必ず全員生還させるのよ」
　黒依は意を決して、雑居ビルの中へ飛び込んだ。
　神野もそれに続く。
　局面は、このあと一気に動き出す。

《骨削瓢：生死不明＆所在不明》