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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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黄昏空のその向こう
鉄鋲打たれた山門の扉に背中を押し付け、丸美は大通りの入り口で周囲を見回す高鬼の襤褸布纏うた背中を見つめる。獲物を探して町を見下ろす鬼の金色した丸い目玉が、山門の傍で固まる丸美を映す。長い腕を振り、高鬼が膨らんだ腹の体を丸美へと向ける。
「なんか怖いのが来る……どうしよ？」
血色の良い頬を青褪めさせ慌てて後ずさるも、背中はすぐに山門の頑丈な扉にぶつかる。開いた扉に背中を押し付け横に歩いて、扉の影に身を潜めて蹲る。耳を塞いで息を潜めて、なんとかやり過せないかと身を縮めるも、鬼の重たい足音は迷うことなく山門の前に立つ。扉の軋む音と共、物陰よりは明るい宵の闇が頭上に降り注ぐ。ふくふくとした子狸じみた少女を獲物と定めた鬼の巨大な掌が丸美の頭をガシリ、掴む込む。
鬼の掌に視界を奪われたその一瞬、丸美の瞼の裏を幼い頃の記憶が過ぎる。
自分の周りを走っていく友達の足と、それを追いかける自分の足と。息を切らして走りながら見上げた視線の先、鮮やかな春の緑の森をひらひらゆらり、飛んで行く鮮やかに不思議な色した翅の蝶。
「わ、」
悲鳴を上げる間もなく、丸美の視界が明るくなる。どきどきと暴れる心臓のその癖、どこかぼうやりとする頭のまま、鬼から解放された丸美はその場に腰を抜かしてへたりこむ。
呆然と見上げる瞳が映すのは、大通りの家の屋根の上、幾つもの袋を手に立つ真央の姿。
丸美の記憶をひとつ奪い、鬼は屋根の上に立つ真央を次の獲物に決める。貪欲な目玉を巡らせ、足音響かせ大通りに鋭い三本爪の足を向ける。
「……怖っ！？」
見るからに恐ろしげな姿形の高鬼に、真央は思わず悲鳴を上げる。手にした袋から『高』を選び出し、
「真央ちゃんチキンですまぬのだ～」
鬼がその長い手を伸ばせば届く屋根の上から、鬼の禿頭目掛けて全力で袋を投げつけ、脱兎の勢いで屋根を駆ける。
頭上に降ってきた袋を大きな手で摘まみ、鬼は金色目玉を不機嫌に細める。タンクトップの裾揺らし猫じみた動きで屋根の上を逃げる少女の背に恐ろしく長い腕を振り上げかけて、
「こっちだよ！」
威勢の良い声に気を取られた。視線向ければ、深い緑の髪した小柄な少女が大通りの真中に立っている。
あちこちで頼りなげに揺れる提灯や灯篭の光の中、逃げ惑う妖達の不可思議な影を足元に、円は顎を昂然と持ち上げ高鬼を睨み据える。
「ほら、こっちだってば！」
笑みさえ含んだ声を張り上げ、円は高鬼が己を獲物と定めるを確かめ、スカートの裾を翻して駆け出す。
（動きは遅いけど）
妖達を追い抜いて身軽に走り、時折振り向く。ボクシングの試合で相手を見定めるに似て、冷静に高鬼の動きを観察する。
（リーチの長い拳に自信がありそう）
少し前に友人と共に歩いた道を辿る。向かうは、一度訪ねたことのある小さなお社。夜の暗さは感覚を狂わせる。高鬼と相対するにしても、知っている場所でなければ厳しい。
「神主さん！」
辿り着いた町中の小さな神社の小さな鳥居の前、円は言葉交わしたことのある少女の姿した神主を呼ぶ。神主の応えを受けられないまま、石畳の参道を進み、小さな社を覗き込む。格子戸の奥、夜闇に無数の小さな鳥居が以前と形を変えることなく静かに祀られている。
ちらりと唇を尖らせ、円は背後を振り返る。鈍重な足音が近付いて来ている。
僅かに乱れた息を整え、唇を引き結ぶ。通りに身を躍らせ、僅かな土地勘を活かしてある程度は広い井戸の広場に鬼を呼び込む。
広場の央で、深呼吸ひとつ。
壁に三本爪を掛け、鬼が姿を現す。それと同時、緑の髪を夜になびかせ、円は駆ける。鬼の瞳を見据え、動きを見つめ、鬼の拳を誘う。踏み込む足と骨張った肩の動きから横殴りに飛んでくる大振りの一撃を読む。小柄な身を更に屈めて横をすり抜け距離を取ろうとして、思いがけず速く戻った鬼の腕に肩を掠められた。
「っ……！」
掠った、と思った途端、頭に血が上る。怒りに眩んで転びかける腕を鬼の手が掴む。宙吊りになる。
熱くなる心にふわり、幼い頃の記憶が被さる。
必死になって追い駆けても遠ざかる祖父の背中。散歩だと幼心に分かっていても悲しくなって、歩幅の差に気付かず歩く祖父に怒って立ち止まろうとして、足がもつれた。転んだ。
すりむいた膝も掌も痛くて、置いていかないでとうつ伏せたまま泣いた。
――御爺ちゃあん
涙まみれの頬を、戻ってきた祖父が撫でてくれた。笑いながら背負ってくれた。あの時の嬉しくて暖かくて大きな――
喪失感が胸に冷たくわだかまって、円は緋色の瞳を歪める。片腕を吊り上げられたまま、もう片手で鬼の鳩尾に鋭い拳を打ち込む。
ダメージを受けた風もなく、鬼は円を地面に放り出す。飛び退って距離を取る己に見向きもせず、次の獲物を探して歩き始める鬼の背を睨み、円はどうしようもない悔しさに歯噛みする。
「なんか怖いのが来る……どうしよ？」
血色の良い頬を青褪めさせ慌てて後ずさるも、背中はすぐに山門の頑丈な扉にぶつかる。開いた扉に背中を押し付け横に歩いて、扉の影に身を潜めて蹲る。耳を塞いで息を潜めて、なんとかやり過せないかと身を縮めるも、鬼の重たい足音は迷うことなく山門の前に立つ。扉の軋む音と共、物陰よりは明るい宵の闇が頭上に降り注ぐ。ふくふくとした子狸じみた少女を獲物と定めた鬼の巨大な掌が丸美の頭をガシリ、掴む込む。
鬼の掌に視界を奪われたその一瞬、丸美の瞼の裏を幼い頃の記憶が過ぎる。
自分の周りを走っていく友達の足と、それを追いかける自分の足と。息を切らして走りながら見上げた視線の先、鮮やかな春の緑の森をひらひらゆらり、飛んで行く鮮やかに不思議な色した翅の蝶。
「わ、」
悲鳴を上げる間もなく、丸美の視界が明るくなる。どきどきと暴れる心臓のその癖、どこかぼうやりとする頭のまま、鬼から解放された丸美はその場に腰を抜かしてへたりこむ。
呆然と見上げる瞳が映すのは、大通りの家の屋根の上、幾つもの袋を手に立つ真央の姿。
丸美の記憶をひとつ奪い、鬼は屋根の上に立つ真央を次の獲物に決める。貪欲な目玉を巡らせ、足音響かせ大通りに鋭い三本爪の足を向ける。
「……怖っ！？」
見るからに恐ろしげな姿形の高鬼に、真央は思わず悲鳴を上げる。手にした袋から『高』を選び出し、
「真央ちゃんチキンですまぬのだ～」
鬼がその長い手を伸ばせば届く屋根の上から、鬼の禿頭目掛けて全力で袋を投げつけ、脱兎の勢いで屋根を駆ける。
頭上に降ってきた袋を大きな手で摘まみ、鬼は金色目玉を不機嫌に細める。タンクトップの裾揺らし猫じみた動きで屋根の上を逃げる少女の背に恐ろしく長い腕を振り上げかけて、
「こっちだよ！」
威勢の良い声に気を取られた。視線向ければ、深い緑の髪した小柄な少女が大通りの真中に立っている。
あちこちで頼りなげに揺れる提灯や灯篭の光の中、逃げ惑う妖達の不可思議な影を足元に、円は顎を昂然と持ち上げ高鬼を睨み据える。
「ほら、こっちだってば！」
笑みさえ含んだ声を張り上げ、円は高鬼が己を獲物と定めるを確かめ、スカートの裾を翻して駆け出す。
（動きは遅いけど）
妖達を追い抜いて身軽に走り、時折振り向く。ボクシングの試合で相手を見定めるに似て、冷静に高鬼の動きを観察する。
（リーチの長い拳に自信がありそう）
少し前に友人と共に歩いた道を辿る。向かうは、一度訪ねたことのある小さなお社。夜の暗さは感覚を狂わせる。高鬼と相対するにしても、知っている場所でなければ厳しい。
「神主さん！」
辿り着いた町中の小さな神社の小さな鳥居の前、円は言葉交わしたことのある少女の姿した神主を呼ぶ。神主の応えを受けられないまま、石畳の参道を進み、小さな社を覗き込む。格子戸の奥、夜闇に無数の小さな鳥居が以前と形を変えることなく静かに祀られている。
ちらりと唇を尖らせ、円は背後を振り返る。鈍重な足音が近付いて来ている。
僅かに乱れた息を整え、唇を引き結ぶ。通りに身を躍らせ、僅かな土地勘を活かしてある程度は広い井戸の広場に鬼を呼び込む。
広場の央で、深呼吸ひとつ。
壁に三本爪を掛け、鬼が姿を現す。それと同時、緑の髪を夜になびかせ、円は駆ける。鬼の瞳を見据え、動きを見つめ、鬼の拳を誘う。踏み込む足と骨張った肩の動きから横殴りに飛んでくる大振りの一撃を読む。小柄な身を更に屈めて横をすり抜け距離を取ろうとして、思いがけず速く戻った鬼の腕に肩を掠められた。
「っ……！」
掠った、と思った途端、頭に血が上る。怒りに眩んで転びかける腕を鬼の手が掴む。宙吊りになる。
熱くなる心にふわり、幼い頃の記憶が被さる。
必死になって追い駆けても遠ざかる祖父の背中。散歩だと幼心に分かっていても悲しくなって、歩幅の差に気付かず歩く祖父に怒って立ち止まろうとして、足がもつれた。転んだ。
すりむいた膝も掌も痛くて、置いていかないでとうつ伏せたまま泣いた。
――御爺ちゃあん
涙まみれの頬を、戻ってきた祖父が撫でてくれた。笑いながら背負ってくれた。あの時の嬉しくて暖かくて大きな――
喪失感が胸に冷たくわだかまって、円は緋色の瞳を歪める。片腕を吊り上げられたまま、もう片手で鬼の鳩尾に鋭い拳を打ち込む。
ダメージを受けた風もなく、鬼は円を地面に放り出す。飛び退って距離を取る己に見向きもせず、次の獲物を探して歩き始める鬼の背を睨み、円はどうしようもない悔しさに歯噛みする。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年01月21日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年01月28日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年01月28日 11時00分
