●●●学友時々敵●●●
　月が夜空を照らす空に犬が鳴き、一層寂しくその姿を映す。
　使われなくなってから久しく、取り壊しもされずに放置されている廃工場。
　何の因果か、道場の扉を開いた後に広がる光景がそこだった者がいる。

「力はほしーけど、傷つける力より救う力がイイカナーナーンテ★」

　志波 武道はその1人だ。
　軽口をたたいているが、武道も明確に力を求める者だ。
　弟を慕い、弟の関わる全ての人を守る力を欲している。

　強い月明かりが差し込んでいるため、廃工場の中を徘徊していた。
　対戦相手となる人物やギミックを探しているがなかなか見つからない。
　武道は心の中で遠距離や複数相手ではないことを祈っていた。

「影から小さい影が飛び出してる…相性ワルイカモシヤコレ！？」

　言った側から複数の小さい影が武道に向かって来ていた。
　はねるように移動するその姿は動物のように見える。
　力強く頭を左右に振り、苦手意識を意識しないようにする。

「エェイ！影倒して対遠距離や複数戦のヒントをつかむぞ畜生！」

　自棄になった風にも聞こえるが、自分を奮い立たせている。
　いつまでも苦手とは言っていられないのだ。
　小さい影に向かいつつ周りを見渡し、頃合いのよいがれきを発見。
　それを影側に倒し、埃で煙幕を作る。

　小さい敵がなんなのか分からないが操作をする人間がいるはず。
　武道は回り込んで相手の背を取ることを考える。
　そして、相手に自分の場所が悟られないよう、時間差でがれきが倒れるように仕込む。

　走り回った武道はそれらしき人影を発見する。
　そして、幸いにも背後を取れそうな方向だ。
　出来るだけ音を立てずに背後に近づいたところで、小さい影に足を取られる。

「ノォ！？」

　その声に気がついた人影は新たな影を召還し、武道に突進させる。
　腹に殴られたような衝撃、肩に切りつけられた感覚を受けた武道。
　形勢不利と判断し、足を取られた影を手刀で突き、いったん撤退する武道。

「あの黒い人影が対戦相手かなぁ…後ろ、警戒しておいてよかったぁ」

　武道が去った後、小さい影、人形の被害を確認する呉井 陽太。
　陽太もまた対戦相手を探しており、先ほど接触したのが多分そうだろうと思う。
　陽太のろっこん【ＣＣＣ】は自作の粘土細工を自在に操ることが出来る。
　その人形を使用して戦闘を行なうが、壊れてしまうと操ることが出来なくなってしまう。

「よし、まだ大丈夫そうだねー」

　少し手を加え、攻撃された犬の人形を大事そうに置き、つつく。
　若干動作に不安は残るが、大丈夫だろうと判断する陽太。
　攻撃の形に多少見覚えがあった陽太だが、深くは思案せず相手を捜す。

　相変わらず大きな音が不規則に鳴り響き、相手がどこにいるか分からない。
　だが、通り道に音がでるようにしているなら、次の場所がある程度予測がつく。
　柱の陰に隠れてあたりの様子をうかがう陽太。

　陽太の予想は運良く的中し、人影が近づいてくる。
　程良く距離が詰まったところで用意していた犬、猫、兎の人形を相手に向かわせる。
　若干耐性が出来たのか、人影は驚くような動作とともに、がれきを投げつける。
　猫の人形が落とされたが、犬、兎で片腕を封じ、かみつくことが出来た。

「イヤーッ！　これだから複数は苦手ナノー！」

　陽太の聞いたことがある声が響き、人影は取り払うように腕を振るう。
　知り合いだとしても、手は緩めない。
　陽太は鶏、熊を人影に向かわせ、嘴で攻撃、体当たりで体力を削りにかかる。
　だが、方向がばれたのか、片手が封じられたはずの人影が陽太に向かってくる。
　慌てて下がる陽太だが、人影が一歩早く手刀を放つ。

「くそっ」

　悪態をつく陽太はそれでも致命傷を避けることが出来、腕に攻撃されたにとどまる。
　しかし、不思議なことに攻撃された腕が動かない。
　仕方がないと振るう蹴りでの攻撃は易々と回避された。

　人影に回り込まれそうになるが、鶏、熊が追いつき、攻撃を加える。
　直撃した人影はダメージを受けつつ犬と兎の拘束をはずし、闇に消える。

「イタタ…あの小さい人形強いな…あれ？　人形…ッテ相手陽太くんか！？」

　闇に消えた人影、武道は相手を認識した。
　おそらく片腕が使えなくなった陽太も同じだろう。
　だが、だからといって手を抜くわけではない。

　最初の犬は武道のろっこん【スイ・マー】を食らっても麻痺しなかった。
　【スイ・マー】は突いた場所を麻痺させる能力だ。
　最近の進化でどれだけ効いているかも直感的に分かるようになった。

「でも余計に攻撃しずらいなー…」

　減った体力を回復させるように隠れて休む武道は1人愚痴る。
　この甘さが自身の致命傷となり得るのは理解している。
　だが、その甘さが自分自身だと言える。
　そんなことを考えていたら頭上から鶏が降ってきた。

「エェ！？」

　驚き、鶏を攻撃しようとした武道に熊が片手を攻撃する。
　鶏は排せたものの、痛みが走る片手は切りつけられた腕でもあり、攻撃には使えない。
　犬が突進してきたところを間一髪で避け、熊を蹴り飛ばす。
　だが、兎に後ろを取られ、膝をついてしまう武道。
　嫌な予感がして横に転がるが。

「勝負あった、ですかねぇー」

　いつものように笑顔でいる陽太だったが、武道の腕を踏みつけ封じていた。
　力を込める武道だが、弱々しく笑う。

「コウサンダー」

　ダメージが多かったことと犬と兎が追加攻撃の準備をしていたためだ。
　陽太は武道の体を気遣いながら、礼を言う。

「思い切り戦ってくれてありがとう」
「いやいや、こちらこそ」

　お互いに笑みを浮かべながら握手を交わす2人。
　戦いを振り返り、評価をし合う姿もまた、学びなのだろう。