突然の決戦は肩車の騎馬戦で！｜リアクション

突然の決戦は肩車の騎馬戦で！

　神助天佑は古めかしい学生帽を被っている。黒い学生服の上からは外套のマントを羽織り、海岸を一望できる歩道を足早に歩いていた。
「あの怪しげな集団は、まさか！」
　マントを片手で翻し、砂浜の様子に目を凝らす。小さな拳を固めて即座に身を震わせた。
「騎馬戦に紛れて悪の組織が邪な企てを実行しようとしているのですね！」
　乱戦の様相を帯びる中、駆け回る真央の姿に目を剥いた。
「赤いジャージの彼女が空中からタヌキを召喚！？　いえ、あれは太った猫ですね。島で頻発している怪事件を思い起こさせるような異常事態です」
　警戒を強めた天佑は周囲に視線を飛ばす。黒い帽子にセーラー服を着た長身の少女、矢萩槇に目が留まる。顔を海岸の方に向けてこちらに歩いてきた。
「ど、どうして」
　学生帽の鍔を摘まんで引き下げた。動揺でよろけた天佑は苦しげな声を出す。
「……矢萩先輩と騎馬戦がしたい衝動が起こるなんて……僕の中にいる闇の人格が覚醒の時を迎えているのだろうか――」
　身体の内部から噴き出る何かを抑え込むかのように我が身を抱き締める。感情の高ぶりに身を差し出した天佑は声の限りに叫んだ。
「女性に対してこのような気持ちを抱いたのは初めてです――先輩と身体を重ねたい……僕の初めての女性になってください！」
「ふぇ！？　は……初めてが……私でいいの？　いいのねぇ！」
　槇は猛然と走り出し、天佑に抱き付いた。重なった二人はそのまま歩道に倒れ込む。
　下敷きとなった天佑は表情を歪めたものの、上に乗っている槇を気遣って言った。
「せ、先輩、怪我はありませんか？」
「うん、あ。膝を少し擦り剥いちゃった～」
　槇が片膝を立てると膝頭の部分に血が滲んでいた。天佑の目は少し下がって捲れたスカートの奥に到達する前に自身の掌で顔を覆う。
「邪悪な内なる闇人格に僕は負けないのです」
「えっと、さっきの返事だけどぉ、私も天佑君の初めての女性になって、気持ちよく合体したい……」
「い、いいのですか」
「あうう……不束者ですがよろしくお願いしますぅ」
　槇は帽子を斜めにして赤らんだ顔を隠して立ち上がる。はい、と手を差し出して天佑を引っ張り上げた。
「先輩、ありがとうございます。先程の合体とは肩車的な意味ですよね」
「そうだよー」
「そ、そうですよね。では、先輩の了解を得たので僕が下に――」
「早速、合体だね！」
　槇は天佑の後ろに回り込むと脇の下に手を入れた。造作もなく持ち上げると自身の肩の上に乗せた。
　天佑は潤む目を空に向けた。
「……今日ほど、大きな男になりたいと思ったことはないのです」
「どうしたの、天佑君？　指示の方はお願いね。私、頑張って動くよ」
「わかりました、任せてください。方針としては各個撃破ですね。敵の側面や背後を狙っての一撃離脱がいいと思います」
「そんな感じで動いてみるね。でも、ここぞって時は全力だよ！」
「はい、僕も上で頑張ります」
　天佑は砂浜の状況に目を向ける。激しい攻防の一騎打ちを演じていたのは竜也と刀であった。上に乗っている朱蘭と千歳に疲労の色が見て取れる。少し離れたところに蛇那伊と修が並んで歩いていた。上の二人、梢と海美は朗らかな顔で会話をしているようだった。
　単独で走り回っているのは真央だけであった。上には妖しげな猫がいる。
「先輩、あの赤いジャージの彼女を追い掛けてください」
「えーと、いた！」
　長い黒髪を靡かせて槇は笑顔で向かっていった。