永田孝文先生の古典講座Ⅱ　～秋月と短歌と若者語訳～｜リアクション

永田孝文先生の古典講座Ⅱ　～秋月と短歌と若者語訳～

【授業開始！】

　永田孝文先生は配られていくプリントを見ながらさて、どうなることやらと思っていた。
　教卓からは生徒たち一人一人がよく見える。
　突然のことに驚き慌てる者、冷静に対応を考える者、おっかなびっくり始める者、顔から煙を出しそうなくらい悩んでいる者……そしてなにやら企んでる顔。
（――今回は面白いことになりそうか？）
　すでに短歌は読み上げることが分かっている。その上でどういった反撃を仕込んでくるのか、そしてそれをのらりくらりとかわすのも楽しみの一つである。
「さて、時間が来るまで見て回っているからな。質問があれば呼んでくれー」
　終わりのことを楽しみにしつつ、そっと教室の中を見回り始めたのであった。

【後木真央の場合】

「分からぬのだ！」
　開始五秒。後木真央はそう決定づけた。
「夏目さんが全ての邪魔をするのだ……。脳みそから明治相聞歌アイラブユー（月が綺麗ですね）が離れないのだ～」
　ぼそぼそと机にへばりつきながら苦悶する真央。
　プシュ～と頭から煙が出そうなくらい考え込んでいる。
　ついでに、プリントは真央と机にサンドイッチされてクシャリと小さな悲鳴を上げた。
「ままま、万葉集なんて全部相聞歌って思って間違いない気がするのだ～」
　色々考えのたのかどうかは分からないが、当然そう言って声を上げたりする。
　相聞歌とは、いわゆる応答形式の歌の分類のことである。
　場合によっては恋人同士で交わされた歌とも言うが、諸説あるので割愛する。
　確かに、万葉集では相聞歌と呼ばれるものはあるが、全部がそうだというのはだいぶぶっ飛んだ発想である。
　というか、時折そうやって突然動くので奇妙な感じがする。
　そういうパフォーマンスをしつつ、真央は髪の毛をぐしゃぐしゃしつつ、シャーペンをがりがりとかじるようにしていじる。
　そして、おもむろに何かを思いついたのか書き始めた。
「ひらめいたのだ！」
　キュピーンと、音が入るのならそういう音が入ったであろう。
　しかし、書き殴ったものを見て、真央はさらに頭を抱える。
「やべぇのだちっとも平成のノリじゃないのだ明治？昭和？おじぃや叔父貴のギャグに洗脳され過ぎたのだ～！？」
「ちょっと静かにしなさい。でもプリントは回収ー」
「あ、待つのだ－！」
　そして、プリントはそのまま永田先生に回収されていった。

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