永田孝文先生の古典講座Ⅱ　～秋月と短歌と若者語訳～｜リアクション

永田孝文先生の古典講座Ⅱ　～秋月と短歌と若者語訳～

【桜庭円の場合】

　桜庭円はくるくるとペンを回しながら考える。
（今回も合作だー）
　ずらっと黒板にある三つの短歌をつなげてみる。
（こうして並べてみると、書き手の背景や思考が出て面白いよねぇ）
　月という自然物としては何も変わらないものが、人の視点によって見方がそれぞれ変わることに妙な面白さを感じる円であった。
　そして、プリントに答えを書く前にノートにポイントをメモしていく。
（むぅ？　こんなものかな）
　ざっとポイントを眺める。

【い】
当たり前の様に月は満ちかける
この世の出来事にまるで感心が無いかのように

【ろ】
自分の為に在る訳ではない（ここポイント）
それは解っているけども
秋の月を観ると様々なことを思い出し悲しくなる

【は】←（単純に綺麗な感じをイメージした？）
秋風に吹かれ
雲の切れ間から顔を出す月は
こんなにも綺麗なのかぁ

（現代風に言い換えてみると……こうかな？）
　プリントは見る間に埋まっていく。
　うまく出来ているであろうか？
　少しだけの不安と前向きな気持ちが入り交じったようなものを円は感じた。
（それにしても、先生の今回の意図って何だろうなぁ？　孤独？　視点を変える事？）
　プリントを書き上げ、永田先生の狙いについて考えてみる。
　――そこで、なにやら手を上げた生徒がいた。
　
　なお、プリントはしっかり提出した。

【唐突なコンビネーション　響タルトと桃川圭花の場合】

「はいはい！　先生！」
　授業中、タイミングを見計らったように響タルトが手を上げた。
　手を上げる前に、桃川圭花とアイコンタクトを交わし、作戦開始を告げる。
「何かな？」
　机の間を回っていた永田先生はそっと動きを止めると、教壇の近くへ行ってタルトの方へ視線を向けた。
「先生の個人的経験に基づく解釈もぜひ聞きたいです！」
「おやおや？」
　タルトが元気よく質問？　をする。
　どうしようかと微笑む永田先生にさらに追撃がかかる。
「はーいはーい。私も先生の訳が聞きたいわ」
追撃をかけたのは圭花であった。
「まー若者語とは言えないにしても……お手本にはなるでしょ？」
「おいおい、それだとオッサン語訳になってしまうぞ？　若いのの手本にもならない」
　楽しそうに言う圭花に苦笑する永田先生。
　実は事前に「僕一人の声じゃスルーされそうだから、ぜひ応援してよ～♪」とタルトが根回しをしていたので、うまく連携が取れたのである。
「あ、もしかして」
　圭花がにやりと笑って問いかける。
「何かしら近代文学にあるような、儚げな雰囲気に浸ってたりするんですか？」
　その言葉に、永田先生はにやりと笑う。
「仕方ない、では……【は】の句でオッサンの言葉を一つ」
　そう言ってわざわざ教室の注目を集める永田先生。
『うまい酒を飲むには、風景も大事だ。それが綺麗な月ならば酒はすすむ。月と日本酒はすばらしい。つまみがあればなおよろしい。月は良いね、酒が飲めるぞ』
　以上である。
「「「酒かよっ！！！」」」
　教室から突っ込みが巻き起こる。
　そのままあちこちでざわめきが起きて、それを永田先生は時間の経過を告げて静かにさせる。
　タルトと圭花も慌てて真っ白なプリントに取りかかる。
　結局、うまくかわされたような感覚がしたタルトと圭花であった。

　なお、タルトはなにやら愉しそうに？　プリントを仕上げ、圭花はあくびをかみ殺しつつなんだかんだで終わらせたのであった。

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