永田孝文先生の古典講座Ⅱ　～秋月と短歌と若者語訳～｜リアクション

永田孝文先生の古典講座Ⅱ　～秋月と短歌と若者語訳～

【そして発表へ　前半】

「ふむ、こんなものか」
　回収したプリントを手に永田先生は微笑む。
「では、本日の発表と行こうか」
　そう言って、プリントを整理して読み始める。

「まずは後木ー。前回のリベンジなるかな？」
「孝文ちゃんセンセー、提出した物はセンセー独りで楽しみつつ公開しないって方向性はないのだ？」
　汗を流しつつ問う真央に対し、永田先生は「ない」と断言する。
イ「アイラブユー（貴方が居なくて寂しい）」
ロ「アイラブユー（貴方の居ない私はぼっち）」
ハ「アイラブユー（貴方は月のように美しい）」
「……毎年、ネタに困った生徒がやる手口だな。で、どうしてこう思った？」
「だってこの月って全部誰かの擬人化の気がするのだ、だから全部大好きだで良い気がしたのだ、あぅぅ」
「そうかそうか」
　永田先生は頷きつつも、こういうのもありと言えばありだからな。と笑っていた。

「次、恵御納―」
『綺麗な秋の月を見ていると
　これまで起こった事や色んな事が思い出されて
　何故だかそれらを悲しく感じてしまう
　悲しい事ばかりではなかったはずなのに……

　秋は僕一人のものじゃないし
　僕に悲しみを運ぶ為に来るわけではないのに
　何でそう思ってしまうんだろう

　月は、心をさらけ出す鏡なんだろうか
　悲しく思うのは
　僕が心のどこか悲しみを抱えているから？』
「ふむ、悩んでいるのが若人らしい。あと、ちょっと詩的だな」
　読み上げた後、永田先生は夏朝に話しかける。
　ちなみに、彼女は恥ずかしくて机に突っ伏していた。
「あぅぅぅぅ」
　いいじゃないかの言葉が、なおさら羞恥心を煽るのであった。

「黒依か。今日はどんな作品になったかな」
　その言葉で、前回提出した文の中の、ねこったーでおはようが頭をよぎる。
「っ！」
　じっと、アリーセは永田先生を見る。
　永田先生は気にした様子もなく読み上げていく。
『濡れた道　独り歩く　すがる影を　振り切るように
　冷たい風　通り抜けて　道を開く　進む先に
　闇の出口　示した光

　濡れた肩　抱え込んだ　溢れる気持ち　抑えるように　
　暗い空　風が裂いた　雲の切れ間　光射して
　心貫く　澄んだ光
　
　濡れた頬　何も出来ず　ただ見惚れた　打たれたように
　街の広場　天使の噴水　伸びる影も　美しくて
　夜の街で　出逢った光』
「歌詞のような構成になっているな。いいと思う
「ありがとうございます」
「月という言葉を使わずに色々と言葉を出してみようとした部分が特に良い」
　そう言って、永田先生はアリーセを褒めた。
　アリーセは、ほっとしたような、うれしいような、恥ずかしいような……。
　そんな色々な感情が入り交じって、少しだけ笑った。

「次は、御剣だな」
『世間は空しいなと思うけれども、月はそんな時もあるよと言うようにいつもと変わらず満ち欠けしている。
　そうだな、今はそう感じているけれどもいつもそう感じている訳じゃない。
　欠けた月が満ち、満ちた月が欠けるように、俺の心も明日の夜にはきっと違う風に感じているだろう。
　なら明日の自分に宛てて今日の気持ちをここに書き記しておこう、明日の自分はこの気持ちを読んでどんな風に感じるかな』
「……」
　読み上げられる文章を聞いて刀は少しだけ照れている。
「それで、御剣は……今日、どんなことを書き記しておくんだ？」
「先生！」
　がたっと机に衝突しつつも、慌ててやめてくれと言う刀に、いじる永田先生。その様子に、教室は笑いに包まれた。
　刀はいじられつつも、今日の月を見て何を感じるか考えてみようと思ったのであった。
　なお、割と良い点数がついていたとか何とか。

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