【決戦！】

　佳境を迎えた、マタ工不良撃退作戦。
　グラウンドにて再び睨み合うのは、寝子高生たちの中でも選りすぐりの武闘派な面々……そして、
「くっくっくっ！　この山田 透遁の策と……」
「あっしの頭脳が合わされば、体育祭を中止に追い込むなぞ造作も無いこと！　ってなところかぃ、ブラザー？」
「バッチリですよ、ブラザー！　さああなたたち、ここが作戦の要、決戦ですよ！」
　おお～……覇気の無い返事でわらわらわら、寝子高インドア派非リア勢をまとめあげる骨削 瓢、そして山田 透遁の、即席連合軍でありました。
　ええと……どうしてこうなった！
「……どうなってるのかしら、これ」
「骨削のヤツが、あの山田ってのをそそのかしたって感じやろ。ったく、何してんねん……」
　思わずぼやきが入る、ティナ・フォルトゥスと浅沼 柳司。いつの間にやら相手が違っていたことに、眉をひそめて、ため息ひとつ。
　と、そんな両陣営のちょうど真ん中へ、
「……ぶひぃ！」
　ずごん、というすごい音の後、空から飛んできてぼむっと土の上を跳ねたのは、不良たちのリーダー。田中 王苦です。
　王苦は透遁の姿を見つけると、
「お、おお……た、助けてくれ山田コラァ……あいつら、あいつらヒデーんだ……俺の純情を弄んだ上に、スゲー怖い顔でブン殴るんだ……」
　……何だかもう決戦前に、ぼろぼろのかすかすに弱っていますけれど。
「あら、まだ元気があるみたいですね。これはもっと、『注意』が必要でしょうか？　ウフフ……」
「ぶっぶひぃー！」
　ずざざっと後ずさる王苦の後から現れたのは、静かに怒れる添木 牡丹。それに、
「あんたたち、そいつの身柄は預けたよ」
「俺らで適度にボコしといたから、後はヨロシク♪」
　桜崎 巴、難波 辰でした。
　巴＆辰奈のハニートラップからの、牡丹の容赦ない鉄拳制裁に繋がるコンボで、ココロもカラダもメタメタにされてしまった王苦。リーダーであるそんな彼を、透遁は冷たく見下ろします。
「……くっくっく。田中さん……腕っ節の強いあなたの庇護のもとで二番手に甘んじているのは、もう終わりです」
「な、何言ってんだオラァ……！？」
「これからは私自身と、そしてこのブラザーのツートップで！　マタ工と寝子高、両方の頂点に立つのですっくっくっぐえほっ、げほっごほっ！」
　青白い顔をいささか紅潮させながら、透遁は言い放ちました。いつの間にやら下克上、王苦には青天の霹靂というものです。
「まぁまぁブラザー、ここは助けてやったらどうだぃ？　今度はおたくが、部下として使ってやったら良いじゃない。弾除けくらいにゃなるかもしれんよぃ」
「おおブラザー、ナーイスアイディア！　では田中さん、いえ田中！　部下として、私を守りなさい！」
「ぐぐぐ、ち、ちくしょー！」
　打って変わって高圧的な透遁……そして隣の、いかにもイヤなベクトルで頭がキレそうな瓢の、アヤシイにんまり顔。背後には、ウフフアハハと笑う牡丹。それに巴と辰を見れば、股間がひゅんっと縮まる思いもするわけでして。
　仕方なく王苦は、透遁の下に付くことを決めたようです。
　かくして、決戦！
　ずずいと足を踏み出す後木 真央。両手に携えるは虎の子の必殺ウェポン、陸上部備品の数々！
「活き活きしてる瓢ちゃんはおいといて、寝子高生のみんなをやっつけるわけにはいかないのだ狙いはマタ工生だけなのだ！」
「あの、佐藤っていう子はいないのね……ま、ＯＫよ」
　地を踏みしめて構える、栖来 衣夢。ネコミミチャイナルックは伊達じゃない！
　マウル・赤城・スティックが再びすらりと取り出したのは、ブーメラン。それを投げ放つ時、彼が狙いを違えることは無いのです……！
「ここが正念場ってやつだ。寝子高にケンカを売ったこと、後悔させてやるぜ！」



　瓢が、す、と手を上げ、
「そぉれ、煙幕弾放てぃ！」
　振り下ろせば。途端、どぱん、ぱぱん！　真っ白い粉があちこちで弾けて、煙となってグラウンドへ広がります。
　小分けに包んだ石灰による即席の煙幕弾は、先ほど真央が投げたものと同じ要領です。
「くっそおお、こうなりゃ破れかぶれだコラァ！！」
　視界が悪化する中、煙をかきわけ突っ込む王苦。
　その後には、わらわらと後ろ向き連合たちが続きますが……何だかんだ、彼らも寝子高の仲間。
　元よりマウルの狙いは、王苦ただ一人！
「……いけえッ！！」
　全身を使い、思い切り投擲したブーメランは、凄まじい回転と共に飛翔し、寸分違わずに王苦の脳天へ……！
「しゃらくさいぜ、オラァ！！」
　ばきん！　王苦の丸太のような腕による突きに、弾き返されてしまいました。ブーメランはくるくると宙を舞い、王苦の前方の地面へざくりと突き刺さります……さすがにリーダー、じゃなかった元リーダーだけあり、豪腕に衰えは無いようです。
「行くわよ！」
　衣夢は曲線と円を描き、劈掛掌の動きと技で、巧みに王苦の側面へ回り込みつつ接近。王苦のケンカキックを、しなる腕でさばくと……八極拳の構えに切り替え、叩き込むのは、先ほど御舞鈴を一撃の元に沈めた、鉄山靠！
　けれど、タフな王苦を沈めるには至らず。
「ぐぅえ……！　い、痛ぇじゃねェか、オラァっ！」
「っ……！」
　カウンター、巨体に任せたタックルの衝撃を両腕で防ぐも、衣夢の小柄な体躯はあっさりと浮かび上がり、弾き飛ばされ。
　王苦はそのまま、寝子高生たちの一団へと突進し……と。
「……詰めが甘いわね？」
　宙を舞いながら、に、と口の端を上げた衣夢。
　駆ける王苦が通り過ぎようとしていた足元には、先ほどマウルが投げた、ブーメラン！　彼のろっこんは、息を止め集中することで、そこから自身の右腕をにょきっと生やしてしまうものなのです。
（計算どおり！　ってな？）
「な、何じゃコラァ！？」
　唐突にがっしと足首を掴まれ、動きを止められた王苦は、足元を見下ろして思わず仰天！
　隙を突き、間合いを詰めたのは真央。王苦の耳元に突きつけたのは、陸上競技で使う、スターティングピストルです。
　トリガーを引き絞ると……ぱぁん！　乾いた音が鳴り響き、
「びびびびっくりしたァ！　みみみ耳がっ」
「にゃにゃにゃがおーっ！」
　間髪入れずにろっこんを発動すれば、びよーんっと王苦の顔に飛びかかるデブ猫！　ずっしりと重量感のあるもふもふが顔に覆いかぶさり、
「も、もがーっ」
「隙アリなのだ！　寝子高生の怒りと悲しみの一撃を受けるのだ天誅なのだうおりゃあーっ！！」
　げいーんっ！！
　……またしても。またしても王苦の大事なところへ炸裂する、無情の金的蹴り！
　ぱくぱくと口を開け閉め、よろめく巨体へ、ティナは怒涛の追撃をかけます。
「次は私の番。トドメまで、一気にいかせてもらいますわよ！」
　長い足を振りかざし、ロー、ミドル、レフト＆ライトハイキック！　瞬く間に叩き込まれる、流れるようなコンビネーション！
「ぐ……ね、ネココー生ごとき、ひょろっちぃ連中に……負けるわけにゃ、いかねェんだ……オラァ……ッ！！」
　弱った王苦にとっては、最後の力を振り絞っての一撃だったのでしょう。勢いに欠く正拳突きを、ティナはあっさりと回避。王苦の背中へと素早く回り込み、
「これで……終わりッ！」
　がしりと組み付くと、腰を使って巨躯を跳ね上げ……長身を生かした美しいスープレックスで、フィニッシュ！！
　どがっと脳天を地面にめり込ませ、倒れ込んだ王苦にはもはや、ぴくりと動く力も残されてはいませんでした。