秋の散策～九夜山周辺～｜リアクション

秋の散策～九夜山周辺～

「……ハーイ？」
（うわ、これ絶対通じてない顔だ！？）
　どうしようか梢が途方に暮れかけたそこへ、助け船が出された。
「『彼女は貴方のリュックから色々飛び出てると言ってるよ、西洋の人』」
　月詠が別の袋をつまみながら、英語で話しかける。男の視線がようやく足元に向かった。
「オー、ノー！？」
　叫んだ男が、慌ててリュックからの渡航客を取り締まりにかかる。
「……どうやら、こっちから飛んできたのはそこのおにーさんのモノのようだね」
　落ち着いた声に女子たちが振り返れば、南戸河蔵人が温和な笑みを浮かべていた。蔵人が、クリーンアップの参加者に配られていたゴミ袋を掲げる。
「本人に悪意はなかったようだし、良ければ一緒に回収しないかい？」

「ヘルプまでシていただいて、かたじけない。センキュー」
「日本語、上手なんですねー……」
　礼を言う男に、言葉が普通に通じると分かり、梢はほっと一息。
「HaHaHa！　あなたのイングリッシュ下手ネー」
「ぐぅ……」
　――ひと息つく間もなく、言葉の弾丸に抉られた梢だった。
「嘘よ、ジョークジョーク。得手不得手は誰にもアル。気にしない。ドントウォーリ」
「それで、杉の木からゲームのインスピレーションを？」
「オー、ソウヨ！」
　蔵人に男――ジェイコブ・ジョンソン（通称ジェイジェイで呼んでくれとは本人の談である）が笑った。趣味でフリーゲームを作ることもあるそうだ。
「ズット昔からある存在はとてもミスティック、神秘的。そこにあるネンゲツを思えば、自分がトーッテもスモール。それがわかるネ！」
「悠久の大自然ってやつだね。ゲームだとSFとか……四千年の約束なんて、なんだか面白くなりそうじゃない？」
「クラント、ベリグー。話作りが分かってル！」
「あ、そうだった。私、本書いてるんだけども。良かったらどうぞ」
「おぅ、リアリィ？　クラント、ウデに覚えありダッタか！」
　子供向けの本を受け取り、大仰なリアクションをするジェイコブ。ははぁ、時代劇で覚えたかな、と蔵人は見当をつけた。
「お互い、作品にいい風を吹き込めると良いね。ところでゲームのジャンルって？　調べれば入手できるかな」
「基本RPGネ。前作ったのはダウンロード、難しいカラ、これから作るのに期待ネ」
　そしてその構想は、彼の書きこんでいたメモに全てあるらしい。梢が手にとった。
「私もゲーム好きなんですよー。完成したら是非やりた――」
　メモにある、意味不明の線の羅列に目が点になる梢。
（き、汚い字……）
　ジェイコブが慌ててメモを奪った。
「ヘイコズエ、不埒な思考しましたネ！　人の欠点をノゾく、アゲツラウ、人としてサイテーよ！」
「……それ、ブーメランって言うの知ってますかねー？」
　梢は冷静にツッコミを入れた。
「ん、できたよ」
　話の間、ジェイコブの似顔絵を描いていた月詠が作業を終えた。
「ラフだけどね。あとは君が下山するまでに完成させよう」
「オー、仕事が早いね、ツクヨミは」
　ラフ絵を見たジェイコブが、ためつすがめつ眺めていく。
「ンー……ボクの口、軽く見える気がするケド？」
「本気で違うと思っているのなら、あの千年杉を見習いたまえ」
　重厚な雰囲気の杉の大樹を示し、月詠はところで、と続けた。
「ゴミは引き受けて構わないが？」
「心配ないヨ！　自分の分はケジメをつけさせてヤルゼ！」
「……なら、後でちゃんと捨てるように」
　いつの間にか時間が過ぎていた。途中で寝子杉まで足を伸ばした猯利も、周囲のゴミを拾った後は展望台への道へと引きかえしている。
　もう少しここでメモを取るというジェイコブと別れるまでの間、梢や蔵人、月詠は寝子島の面白い場所などの話をしたのだった。